2020 Fiscal Year Research-status Report
オゾン-アルケン反応の大気質への影響を評価するための新たな化学反応スキームの構築
Project/Area Number |
17K12818
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Research Institution | Japan Automobile Research Institute |
Principal Investigator |
内田 里沙 一般財団法人日本自動車研究所, エネルギ・環境研究部, 研究員 (10772725)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | オゾン反応 / クリーギー中間体 / OHラジカル / アルケン類 / 有機エアロゾル / 大気化学 / 反応速度論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,アルケンのオゾン酸化反応で生成するクリーギー中間体(CI)に関する化学反応スキームを新たに構築することを目的としている.具体的には,CIを介して生成する生成物を測定することで,CIの幾何異性体(syn体とanti体)の反応分岐比や後続反応過程の解明を目指している.前年度までに,対称型アルケン(cisまたはtransアルケン)のオゾン酸化反応で生成されるアルカンとOHラジカルの生成収率は,衝突緩和を受ける前のCI(CI*)の幾何異性体(syn体とanti体)の分岐比情報を有することを示してきた.今年度は,CIの後続反応過程に焦点をあて,オゾン-アルケン反応から生成されるOHラジカルの生成経路(CI*を介したprompt patywayおよび安定化したCI(SCI)を介したthermal pathway)と,アルカンの生成経路(anti-CI*を介した経路)に関する実験的なデータを得ることを目的に,国立環境研究所の光化学スモッグチャンバーを用いて,trans-3-hexeneのオゾン酸化反応系に,OH捕獲剤やSCI捕獲剤を添加した実験を実施した.実験の結果,アルカンの生成収率は,SCI捕獲剤の有無で大きな違いはなく,このことは,アルカンはanti-CI*から生成しており,エネルギー緩和したSCIからの生成は無視できることを意味し,前年度の研究成果と整合的であった.一方,OHラジカルの生成収率は,SCI捕獲剤を添加することで,低下したことから,十分な内部エネルギーを有するCI*からの生成に加えて,SCIを経由したOHラジカルの生成経路(thermal pathway)を示唆する結果となった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度の当初計画では,国立環境研究所のスモッグチャンバーを用いて,様々な条件下で,2-buteneおよび3-hexeneのオゾン酸化反応系でのアルカンおよびOHラジカル生成収率を測定し,CIの生成分岐比(anti-CIおよびsyn-CI)の推定を行うことや,低圧条件で実験可能な小型チャンバーの作成を予定していた.しかし,COVID-19の感染予防対策による出勤制限のため,当初の研究計画の実施が困難となった.そこで,研究計画を見直し,3-hexeneのオゾン酸化反応系に捕獲剤を添加する実験のみを短期間で実施し,CIの後続反応過程に関する有益なデータを得ることができた.なお,JSPSのCOVID-19に係る救済処置により,研究期間を1年延長したため,今年度積み残した課題については,次年度引き続き実施する予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度に引き続き,国立環境研究所のスモッグチャンバーシステムを用いて,種々のアルケン(buteneやhexeneの各種異性体)のオゾン酸化反応系に,SCI捕獲剤を添加する実験を中心に実施する予定である.SCI捕獲剤の変化量や生成物収率に基づき,OHラジカルの生成経路(prompt pathwayおよびthermal pathway)を明らかにすることを目指す.
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Causes of Carryover |
COVID-19の感染予防対策により,参加を予定していた国際会議が中止になったため,それに付随する費用の使途変更が余儀なくされた.さらに,出張規制に伴い,外部施設での実験の進捗に影響が生じたため,研究計画を1年延長することとした.国際会議については,次年度も現地参加の見込みがないため,繰り越した費用については,実験に付随する費用(試薬や部材費など)に使用する予定である.
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