2017 Fiscal Year Research-status Report
オーストリア近代デザインと女性デザイナー:第一次世界大戦前後のウィーンの事例から
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17K12871
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Research Institution | Dokkyo University |
Principal Investigator |
角山 朋子 獨協大学, 外国語学部, 非常勤講師 (70790343)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | オーストリア近代デザイン / ウィーン・キネティシズム / ウィーン工房 / 装飾 / モダニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
1910年代から1920年代のウィーンのデザイン・芸術界の動向、及び前衛芸術グループ「ウィーン・キネティシズム派」(以下、キネティシズム派と略)と美術工芸品会社「ウィーン工房」の女性デザイナーの制作品と造形的特徴を検証した。ウィーン応用美術博物館、オーストリア国立図書館、ザルツブルク近代美術館(9月)、島根県立石見美術館(12月)、飛騨高山美術館(3月)にて作品調査と文献収集を行い、資料の解読を進めた。研究成果は、2018年10月の国際デザイン史・デザイン学会議での発表及び論文集掲載が決定した。 キネティシズム派には純粋芸術的な作品が多いが、応用芸術の教育機関を拠点とし、商業美術や舞台美術も制作された。エリカ・ジョヴァンナ=クリーン、マリアンネ(マイ)・ウルマン、エリーザベト・カーリンスキーらによる絵画、立体、グラフィック作品は、同時代の国際的な芸術動向に通底する前衛性と、連続する運動のリズミカルな表現を特徴とした。その基盤にあったのは、彼女たちが師事したフランツ・チゼックの装飾理念と装飾教育であった。チゼックは、芸術における装飾の本質的な意義を認め、装飾への欲求を人々の本能の一つとみなした。ウィーン工房では、1910年代後半から女性メンバーが躍進し、自然のモチーフや抽象模様による華やかで感性的な作品が制作された。そこには同時代の前衛芸術の表現がしばしば登場する一方、ウィーン工房の女性たちが同時代のイズムに関わる議論や特定の芸術運動に関与した形跡はない。 キネティシズムとウィーン工房の女性たちがそれぞれ前衛性と優美な趣味性という異なる造形傾向をもちながら、共に装飾性を造形的特徴としたことが確認できた。前衛芸術と装飾の融合はこの時期のウィーン特有の造形感覚であり、従来のデザイン史で言及されなかったモダニズム期のヨーロッパ近代デザイン運動の多様性を明らかにしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
並行して実施していた研究課題と教育活動に、想定以上に時間を有した。しかし、研究は他の研究者やキュレーターとの議論や情報交換を通じて着実に進展している。特に、作品や文献の所在に関する新たな情報が集まり、今後の研究の発展が期待される。計画を一部変更し、平成30年度に予定していた島根県立石見美術館での作品調査を12月に行なった。大阪新美術館建設準備室での調査は、平成30年度に実施する。9月に予定していたニューヨークのノイエ・ギャラリーでの調査は、平成30年度4月に実施した。
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Strategy for Future Research Activity |
モダニズム期ウィーンにおける前衛芸術と装飾を融合させるデザイン傾向は、女性のみならず男性デザイナーの間にも認められた。本研究課題が女性デザイナーの創作状況及びオーストリア・デザイン史上の意義の解明であることから、今後は、男性と比べ女性に顕著な制作領域・作風・理念に関わる特徴を明らかにする必要がある。当初の計画では、平成30年8月にウィーンとベルリンで調査を行なう予定であったが、まずはウィーンの男性/女性デザイナーの制作品や活動状況の比較調査を優先することとし、国外ではウィーンで現地調査を行なう。その後、国内で12月から1月にかけて大阪新美術館準備室と豊田市美術館にてウィーン工房作品の調査を行なう。 7月のウィーン現地調査では、ウィーン・ミュージアムとヴェルヴェデーレ宮殿で開催中のオットー・ヴァーグナー、及びグスタフ・クリムトの没後100年の回顧展等を通じて世紀転換期ウィーンの文化に関わる最新の研究動向を追い、キネティシズム派とウィーン工房の活動をオーストリア・デザイン史の文脈において俯瞰する。 以上の方策を軸に、女性たちの制作品と造形的特徴に関する調査研究を継続すると共に、制作品の受容と拡がりに関する調査に着手する。また、平成29年度で終了したウィーン・キネティシズム派の理論的指導者であるフランツ・チゼックのデザイン教育とメンバーのグラフィック作品に関する研究の成果も踏まえ、今後の研究を推進する。
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Causes of Carryover |
ニューヨーク出張の予定がずれ込み、平成30年4月に実施したため。
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