2017 Fiscal Year Research-status Report
新規の蓄光素材による視認性及び持続性に優れ社会的弱者の安全に配慮した蓄光服の創製
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17K12880
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Research Institution | Tohoku Seikatsu Bunka College |
Principal Investigator |
小野寺 美和 東北生活文化大学, 家政学部, 講師 (90523762)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 蓄光糸 / りん光輝度 / 三原組織 / 洗濯試験 / 磨耗試験 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、蓄光糸(光を蓄え自ら長時間発光することが可能な糸)を用いた衣服設計の実現である。 東日本大震災以降、蓄光商品は防災や安全用品として、再帰反射素材とともに取り上げられている。蓄光素材の衣服への応用としては、刺繍糸やファスナー、そしてファッション用の付属テープ等に加工された商品がみられるものの、それらのりん光輝度の評価についての研究はみられない。国内外のメーカーは蓄光繊維あるいは蓄光糸の開発に専念しているが、蓄光布の開発・研究、および、評価試験の方法や評価基準の設定までは至っていない。今後普及すれば、暗所でも災害救助の応援や情報収集、避難などの迅速な対応が可能になる。また、人命救助に当たる人達の衣服に取入れることで、被災者は救助者の存在を視覚的に確認できる。一方救助者は救助に掛かる時間短縮が可能になる。同様に、夜間の交通事故の減少にも期待され、特に社会的弱者の事故を未然に防ぎ歩行者と運転手、双方の不安感を和らげることも期待できる。 そこで本研究は、蓄光糸を衣服設計に応用するために、異なる種類の蓄光糸から本研究全てに使用する共用試料である蓄光布《経糸と緯糸の組織点を種々変更した織物の三原組織(平織・綾織・朱子織)と編物(平編)》を作製した。この蓄光布の耐久性と、表面状態がりん光輝度へ及ぼす影響について明らかにするために、耐久性試験(洗濯試験JIS L 1930(A法)と摩耗試験JIS L 1096(E法))をおこない、各試験前後のりん光輝度測定と、表面観察(デジタルマイクロスコープ及び走査型電子顕微鏡)をおこなった結果、りん光輝度の数値から、りん光性能の持続性を糸の撚りや糸の浮き、また、繊維表面の損傷状態から確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はおおむね計画通りに進められ、【1】~【4】を検証することができた。 【1】蓄光布によるりん光輝度の効果では、糸密度や糸の太さがりん光輝度測定値に影響を及ぼすことが検証された。 【2】蓄光布の耐久性とりん光輝度との関係では、洗濯試験と磨耗試験の前後から検討した結果、洗濯試験前後では、綾織と朱子織は平織よりもりん光輝度の数値が高くなった。摩耗試験では、平編の方がより高い値が得られることから、りん光性能の持続性を確認することができた。蓄光糸の構造は、蓄光材を練り込んだポリプロピレンの芯糸に、ポリブチレンテレフタレートを鞘糸として覆う二層構造である。そこで、耐久試験前後の蓄光糸の表面に、どのような影響が出現するのかについて、【3】耐久試験前後の蓄光糸や蓄光布において、繊維断面や側面の形状の表面観察をおこなった結果、糸の浮きが多い綾織と朱子織や平編の試験布は、平織より糸幅の増大が確認でき、洗濯によって糸の撚りが緩和され表面積が大きくなり、りん光輝度の数値が高くなったのではないかと推察した。一方、摩耗試験後では、糸の浮きが多い織組織の蓄光布でりん光輝度の低下が確認されたことから、摩耗による繊維表面の損傷が影響するとことが示唆された。 次に、ヒトは手で触れ素材との適合性を判断するため、感知する布の性格(風合い)を考慮する必要がある。そこで、触覚的な確認実験として、【4】蓄光布の性質・性能を客観的な測定値を用いて導き出すKES計測システムを用いて、布の力学的性質と布の表面特性を布の物理量から検証した。また、生地を伸ばしたり、押したりする時の応力や引張特性、さらに、曲げ特性などを数値化し、ドレープ係数や、こし、ぬめりなどを算出した風合いの定量評価をおこなった。ある程度の結果を得られているものの、詳細に検討すべき点も多く残されていることから、今後、分析及び考察をより充実させる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は蓄光布を知覚するヒトに着目し、布のりん光輝度がヒトの心理に与える影響を解明するために①と②の実験を行う。予め一定時間、標準光源に暴露させた異なる種類の蓄光糸から作製した蓄光布を実験の共用試料として用い、①主観的な検討実験として、暗所に暴露後の蓄光布を被験者(ヒト)に提示し、ヒトが知覚したときの交感神経の興奮や沈静などの心理的影響を唾液バイオマーカーによる評価法と服装によって生起する感情状態尺度を用いた感性評価実験から検証する。次に、②実用化に向けた応用実験として、自由なデザインにすることが可能な蓄光布が、防災や防犯対策に充分な物性を備えていることを明確に提示することができれば社会的弱者の安全を守る服として利用拡大が期待できる。現在警視庁は防災対策として薄暮夜間における歩行者や自転車利用者の交通事故防止を図るために再帰性反射材の被覆着用を推奨する活動をしている。そこで、再帰性反射材を衣服装飾に取り入れた事例を参考に蓄光布を衣服設計に取り入れた実験を試みる。初年度では編物にする事でりん光輝度を上げることが実証できた。特に蓄光起毛糸(以下起毛糸)は、JIS Z 9107「安全標識-性能分類における性能基準及び試験方法」の基準にある区分の「JA」に相当することから、次年度はこの起毛糸を主に用いる予定である。衣服の着装時にどの部分どれくらいの面積を採用することが求められるのか、安全に配慮するためにはどのような設計が好ましいのかについて、被験者に記述式のアンケート調査を実施する。実験試料として、着装状態をシュミレーションするために、バーチャルファッションコーディネートソフトを用いて画像を準備する。そして記述内容は、人体体表の区分に準じて分類分けし集計する予定である。得られた結果を基に、災害時に安全を考慮した視認性の高い快適な蓄光服の設計指針の提案を試みる。
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Research Products
(3 results)