2018 Fiscal Year Research-status Report
「食料の運搬」から探る先史人類の琉球列島への移動と適応:イノシシ属のゲノム解析
Project/Area Number |
17K12960
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
高橋 遼平 山梨大学, 大学院総合研究部, 特任助教 (40728052)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 先史人類 / 琉球列島 / 移動と適応 / DNA解析 / リュウキュウイノシシ / 家畜ブタ |
Outline of Annual Research Achievements |
先史時代のヒトの移動と適応の解明が研究目的である。ヒトの移動と適応の成功に貢献した「食料運搬」に着目し、先史人類がイノシシまたはブタ(以下イノシシ属)を運んだ時期や経路を探る。生物の移入の時期や地域を判断しやすい「島」である琉球列島を対象に、先史遺跡(12世紀以前)から出土したイノシシ属の骨のDNA解析を行う。また琉球列島の野生イノシシ(リュウキュウイノシシ)の来歴に関しては、更新世のヒトによる持ち込みの可能性も議論されている。そこで現生リュウキュウイノシシのDNA解析も実施し、その来歴を探る。 本年度はまず徳之島での追加解析を行った。面縄貝塚の出土資料と現生リュウキュウイノシシ(昨年度と合わせて計42点と計71点)のDNA解析の結果、面縄貝塚ではヒトによるイノシシ属の持ち込みは確認されず、野生リュウキュウイノシシの利用が推察された。また同島のリュウキュウイノシシが他の島のイノシシ集団と異なる塩基変異を持つ事、この独自の変異が面縄貝塚の資料にも見られる事を再確認した。面縄貝塚の解析資料が属する5000-1000年前より古い時期に、徳之島の集団は地理的隔離などによる変異の蓄積を開始した可能性がある。続いて石垣島の白保竿根田原洞穴遺跡の資料(33点)を解析し、約4000年前の石垣島に現生リュウキュウイノシシと同系統の個体がいた事を明らかにした。そのほか、沖縄島の中城御殿跡の資料の解析も進めている。ブタの運搬が確実にあったとされるグスク時代の資料を解析する事で、先史時代にブタが運搬された場合に出土資料の遺伝的特徴がどう変化するのかを考える1つの材料とする。 解析データの蓄積に伴い、島や地域によっては独自の変異の蓄積が散見されている。現在、この遺伝的な地域差が本当に存在するかを確認すると共に、更新世のヒトによる持ち込み以降にこの地域差が生じ得るのか検証している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は上述の通り遺跡出土資料の追加サンプリングやDNA解析に多く成功し、解析結果は論文や報告書、学会発表などの形で発表した。しかし現生リュウキュウイノシシのDNA解析に際して、抽出DNAの劣化が一部の資料で確認されている。これらの資料は10年以上前の古い骨格標本に由来しており、島によっては新鮮な肉や血液などのDNA資料が追加で必要と判断され、現在サンプリングを進めている。これらを考慮し、予定していた研究計画からやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度(令和元年度)に研究代表者の異動があったため、実験・解析環境の調整をまず行う。 追加サンプリングを進めている現生リュウキュウイノシシ資料のDNA抽出を行う。これらを過去に抽出済みの現生リュウキュウイノシシのDNA資料と合わせ、生息する全ての島の個体・集団を対象としたゲノム解析を実施する。解析では各島のリュウキュウイノシシ集団の分岐年代の算出などを行い、その来歴が更新世のヒトの移動と合致するか、すなわち更新世のヒトによる持ち込みの可能性が考えられるか確認する。また、下原洞穴遺跡(徳之島)など、先史遺跡出土資料のDNA解析も継続して行い、解析データの蓄積を進める。
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Causes of Carryover |
平成30年度に予定していた現生リュウキュウイノシシのゲノム解析を平成31年度(令和元年度)に実施する事とした。この計画変更に伴いゲノム解析の費用を残したため、次年度使用額が生じた。 次年度使用額を利用して、本年度に現生リュウキュウイノシシのゲノム解析を行う。
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