2018 Fiscal Year Research-status Report
遺跡出土貝類遺体の安定同位体比による水域環境の復原と海況変遷
Project/Area Number |
17K12961
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
一木 絵理 明治大学, 研究・知財戦略機構, 研究推進員 (60633930)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 炭素・酸素安定同位体比 / 放射性炭素年代測定 / 炭酸塩 / 貝塚 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,遺跡出土ヤマトシジミなどの貝類の安定同位体比(炭酸塩のδ13C及びδ18O)および完新世堆積物の珪藻分析から,遺跡周辺の水域環境を時空間的に復原することである。 今年度は,昨年に引き続き,霞ケ浦周辺の土浦市内の遺跡資料を中心に分析を行った。貝塚の年代および海洋リザーバー効果を検討するために,土浦市小松貝塚出土試料6点およびつくば市の貝塚試料3点を用いて放射性炭素年代測定を行った。昨年度の結果と合わせ,霞ケ浦周辺の海洋リザーバー効果を検討し,地域補正値を算出することが可能となった。これにより日本各地の地域補正値に霞ヶ浦の新たな結果を加えることができ,年代学や第四紀学に与える意義は大きい。また,霞ケ浦周辺の地質については,既存の上高津貝塚周辺で採取したボーリングコアの結果を再検討し,特に桜川流域の水域環境変遷の総括を行った. さらに,ヤマトシジミ等の貝類の安定同位体比分析においては,昨年度は遺跡出土貝類について,あえて貝殻一個体全量について分析・測定を行ったが,成長縞を利用した詳細な解析が不可欠であることがわかったため,今年度はまず現生の涸沼産ヤマトシジミを用いた成長縞を利用した分析を行った。その結果,酸素と炭素の安定同位体比の変動はよく同調することがわかった.また酸素同位体比は-2.828~-8.216‰,炭素同位体比は-4.430~-11.344‰という結果となり,大きな変動幅を持つことがわかった。このことからも貝殻一個体の平均値での議論は難しく,成長縞を用いた解析が必要である。さらに,淡水生の現生マシジミや上記の放射性炭素年代測定を行ったヤマトシジミやハマグリなどの遺跡出土貝類についても,同一試料について安定同位体比の分析を進行中である。この結果から貝類の種類ごとに,安定同位体比の地域差・時期差を検討し,水域環境を推定する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は,縄文時代の遺跡周辺の水域環境を時空間的に復原するために,特にヤマトシジミを用いた安定同位体比分析による汽水環境の推定と遺跡周辺の完新世堆積物の珪藻分析から読み取る水域環境を相互に議論することを目指しているが,本年度は貝殻炭酸塩の安定同位体比分析の結果を蓄積する事に重点を置いた.さらに貝類1個体につき,安定同位体比の分析1点ではなく,1個体の成長縞に沿って,研究者自身が試料を細かに削り出す必要があった.ヤマトシジミの場合は約40点前後の分析が必要となり,分析試料数が大幅に増え,分析に時間を要した.また,安定同位体比の分析が主体となった理由は,遺跡出土貝類の成長縞を用いた研究はまだ数少なく,試料の種類数や分析数を増やすことが議論の上で不可欠であったからである.そのため,霞ケ浦周辺において,新たなボーリングコアの採取は行わず,既存の上高津貝塚周辺で採取したボーリングコアの結果を再検討し,桜川流域の水域環境変遷の総括を行った.桜川流域だけでなく,霞ケ浦周辺におけるボーリングコア採取と珪藻分析については,改めて次年度以降に取り組む計画をしている. また,八戸・上北地域の遺跡出土貝類および小川原湖産の現生ヤマトシジミの安定同位体比の分析においては,本年度進める予定であったが,八戸市の是川縄文館と分析試料の取り扱いについて協議中であり,次年度以降に協議を詰め,分析を進める計画である.
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Strategy for Future Research Activity |
2か年で遺跡出土貝類および現生貝類の安定同位体比分析を主体に取り組んできたが,今後は,遺跡周辺の水域環境変遷を明らかにするため,地質調査および完新世堆積物の珪藻分析を重点的に行っていく.桜川河口部や霞ヶ浦沿岸において,ボーリング調査に適した場所を研究協力者とともに検討し進める.これらのボーリングコア採取や珪藻分析においては業務委託によって行うが,得られた堆積物については,申請者自身で層序記載を行い,珪藻分析のための試料の抽出等を行う. 並行して,遺跡出土貝類および現生貝類の安定同位体比分析の結果も蓄積し,霞ケ浦周辺と八戸・上北地域で比較検討を行う.特に八戸・上北地域の遺跡出土貝類および小川原湖産の現生ヤマトシジミの安定同位体比の分析を進めることが重要である.また,土浦市内遺跡出土の古代や中世のヤマトシジミについても分析を進め,時期的な変化があるか検討する.さらに汽水生のヤマトシジミに加え,比較検討試料として海水生の代表種としてハマグリについても分析を進める.特に土浦市上高津貝塚では,ハマグリを用いた成長線分析が詳細に行われていることから,既存試料を有効に活用し,安定同位体比分析を検討する.安定同位体比分析は昨年度同様国立科学博物館にて申請者が試料を削り出した後に測定を行い,結果についても古生物学や第四紀学などの研究者とともに議論を重ねていく. これらから,安定同位体比分析による水域環境の推定と遺跡周辺の完新世堆積物の珪藻分析から読み取る水域環境を相互に議論していく.明治大学プロジェクトにおける研究会や日本第四紀学会などの学会での発表を行い,さらに議論を深める必要がある.
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Causes of Carryover |
八戸・上北地域の遺跡出土貝類および小川原湖産の現生ヤマトシジミの安定同位体比の分析においては,本年度に現地への出張および試料採取と分析を進める予定であったが,八戸市の是川縄文館と分析試料の取り扱いについて協議中であり,現地での試料の選択や分析を進めることができなかった.そのため次年度の出張旅費に充てるとともに,現地での打合せと試料の採取,分析を進める計画である. また,本年度は遺跡出土貝類の放射性炭素年代測定や現生ヤマトシジミの安定同位体比分析を中心に進めたため,桜川低地を含めた霞ヶ浦周辺の地質調査においては,ボーリングコア採取における調査補助等を依頼しなかった.今後は,進捗状況の遅れも加味し,ボーリングコア採取について業務委託をすることとし,その費用に次年度充てる計画である.そして,委託業者とともにボーリングコアの層序を観察し,放射性炭素年代測定や珪藻分析を加え議論を進める計画である.
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Research Products
(3 results)