2017 Fiscal Year Research-status Report
安定同位体分析による本州の縄文時代人の食生態の解明
Project/Area Number |
17K12962
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Research Institution | Museum of Natural and Environmental History, Shizuoka |
Principal Investigator |
日下 宗一郎 ふじのくに地球環境史ミュージアム, 学芸課, 准教授 (70721330)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 食性 / 同位体 / 縄文時代 / 古人骨 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,本州における縄文時代の人骨の安定同位体分析を行うことで,縄文時代人の食性について詳細に明らかにすることを目的とする。食性の地域的な多様性を明らかにすること,季節的な変化を明らかにすること,新たな元素の同位体分析による食性推定の高精度化を目指すことの3つを研究の目的とする。これによって,縄文時代人の食生態や環境への適応,そしてその要因についての理解を深めることができると考えられる。 平成29年度は,まず本州縄文人の地域的な食生態を明らかにするために,東海・近畿・山陽・中部地域を中心として,古人骨試料を収集した。それらの試料について,実験により骨コラーゲンを抽出した。そして炭素・窒素同位体比を元素分析装置に接続した質量分析装置(EA-IRMS)を用いて測定した。また個体数は少ないが骨やエナメル質の炭素同位体分析も行うことでエネルギー源を調べた。得られた結果については,統計解析を行い,次年度に学会発表を行う予定である。 また,新たな元素の同位体分析手法の確立のために,骨資料から亜鉛やマグネシウムなどの重金属を陰イオン交換樹脂を用いてカラム分離する手法の開発を行った。カラムに溶解させた試料を通し,酸を連続的に加えて抽出される溶液を連続的に採取した。それらの元素濃度をICP質量分析装置を用いて測定することで,目的元素がどの分画で抽出されるのか確認した。これによって同位体比測定の前段階の実験方法を確立したことになる。 本年度の研究成果は,日本人類学会,総合地球環境学研究所同位体環境学シンポジウム,デンマークの国際研究会などで発表し,他の研究者と有意義な考察を行った。またアウトリーチ活動として所属の博物館のカフェでサイエンストークを行い,一般に本研究内容を分かりやすく紹介した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
単著を出版したことは評価できる点である。本州縄文人の古人骨を収集し,炭素・窒素同位体分析を行うことができたこと,また重金属カラム分離の前処理方法の確立を行ったことは進捗した点である。今後,放射性炭素年代測定をする個体数を増やすことが必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
本州縄文人の炭素・窒素同位体比の測定結果の学会発表を行い,この結果について論文の執筆を行う。加えて本州内陸部の遺跡より出土した人骨の炭素・ストロンチウム同位体比分析を行うことで,食性と集団間移動について明らかとする。また,陰イオン交換樹脂によるカラム分離手法を確立した亜鉛やマグネシウムなどの重金属の同位体比測定を行う。古人骨やニホンジカ骨,魚骨について,同位体比を測定することで,陸上の動物と海の動物によって同位体比が異なるか調べる。大きな同位体比の違いが見つかれば,縄文時代人の海産物依存度の指標としてその同位体比を使用することができる。最後に,歯のマイクロサンプリングによって,食性の季節性を調べることができるのか予備的な分析を開始する。マイクロドリルを用いて微量試料を一つの歯から連続的に採取する。その元素濃度やストロンチウム同位体比の測定を試みる。微量な試料を高い回収率で回収することと,微量試料から濃度や同位体比を高精度に測定することが課題である。
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Causes of Carryover |
科研費のエフォートに見合う実験時間を割くことができず,実験消耗品として購入予定していたものの購入を見合わせた。次年度は,繰越分を年度当初から英文校正の費用に使用する計画である。次年度分は,研究計画に沿って引き続き適切に使用する。
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