2017 Fiscal Year Research-status Report
出土木製遺物の水中保管時における劣化を効果的に抑制する手法の開発
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17K12963
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Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
松田 和貴 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 研究員 (60791035)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 出土木製遺物 / 一時保管 / 保存科学 / 微生物劣化 |
Outline of Annual Research Achievements |
水中保管時における木製遺物の劣化には、好気性微生物の活動が大きく影響していると考えられる。これまで申請者らは、実際の遺物の水中保管環境において溶存酸素を低減する方策を検討、考案してきた。一方、木製遺物を水中で長期間安定して保管するためには、溶存酸素のほか、光および温度条件の違いによる遺物の劣化への影響を定量的に評価する必要がある。本研究では、出土木材を試料とした腐朽実験を中心に、水中における木製遺物の劣化を十分抑制するための、人的・経済的な負担や環境負荷が小さく、簡便かつ継続的に運用可能な手法の開発を目指すこととしている。 平成29年度には、出土木材を試料とした腐朽実験に着手した。本実験では、溶存酸素の有無、および微生物の栄養源の有無の条件がそれぞれ異なる、4つの水槽に出土木材試料を保管し、あらかじめ設定した期間が経過するごとに取り出して、劣化状態の分析をおこなうこととしている。すでに回収した試料については、飽水重量などから推定される最大含水率値を中心に、劣化程度の評価を試みているが、実験条件の違いによる差異は明瞭でない。一方、木材試料の腐朽には比較的長い実験期間を要することから、本実験は現在も継続して実施している。 なお、以上のほかに光や温度をはじめとした種々の条件を設定した実験をおこなうことで、遺物の劣化をより効果的に抑制するための環境条件を、より詳細かつ具体的に提示できるようになることが期待される。試料の分析精度の向上と合わせて、新たな腐朽実験の手法についても、検討を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予想と異なり、現時点において、実験条件の違いによる木材試料の劣化程度の差異が明瞭となっていないため、やや遅れていると評価される。ただし、木材試料の腐朽には比較的長い実験期間を要することから、今後も観察を継続する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
過年度に着手した腐朽実験を継続して実施するとともに、試料の劣化程度の分析手法について再検討をおこなう。具体的には、FT-IRをもちいた分析手法の導入を検討する。また、試料の形状および実験系を見直し、あらたな腐朽実験を並行して実施することを検討する。
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Causes of Carryover |
腐朽実験における木材試料の劣化状態に明確な差異がみられず、当年度は湿式の化学分析の実施を見送ったため、次年度への繰越金が生じた。これについては、次年度以降に実施する化学分析等で必要となる器具等の購入に充てる予定であり、全体の使用計画に大幅な変更は生じない見込みである。
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