2018 Fiscal Year Research-status Report
アフリカ半乾燥地域における農地林の形成過程と機能の解明
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17K12970
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
藤岡 悠一郎 九州大学, 比較社会文化研究院, 講師 (10756159)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 農地林 / アグロフォレストリ― / 植物利用 / 植生変化 / 農村 / マルーラ / 半乾燥地域 / アフリカ |
Outline of Annual Research Achievements |
途上国の半乾燥地域では、人口の急増に伴う農地の拡大により、原植生が縮小し、生物の棲息地が脅かされる状況が生じている。そうしたなか、農地の中に成立する林、すなわち“農地林(アグロフォレスト)”が、農地生態系の維持や作物生産の向上、住民の現金稼得源として注目されている。本研究では、南部アフリカの半乾燥地域を対象に、農地林の効率的な利用に向けて、農地林の歴史生態学的な形成過程を解明し、農地林が社会-生態系のなかで果たす機能を明らかにする。特に、南部アフリカの半乾燥地において広域的に分布し、農地林の主要な構成種であるウルシ科のマルーラ(Sclerocarya birrea)という樹木に注目し、マ ルーラの機能と南部アフリカのマルーラ文化圏の特徴を解明することを目的としている。 平成30年度は、当初の研究実施計画において、重点調査地域における歴史生態調査とマルーラの社会-生態機能調査の実施を予定しており、これらの調査を実施した。平成31年2月に南アフリカの調査地においてフィールドワークを実施し、地域の住民や行政官、マルーラを利用する組合の組合員にインタビュー調査を行い、地域の生業や植物利用の変化、人の移動や集落形態に関する情報を収集した。また、マルーラの果実や種子のサンプリングを行い、重量やバイオマス量を計測した。さらに、研究対象地域であるナミビア北部および南アフリカ北東部における空中写真および衛星画像を地理情報システム(GIS)を用いて解析し、マルーラの生育密度の濃淡を把握した。さらに、調査地の図書館や文書館において文献を入手し、当該地域の人口移動、集落形成、慣習法などについて情報を収集した。 上記の研究成果の一部は、日本アフリカ学会で口頭発表を行い、書籍の一部に含めて公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、南部アフリカの半乾燥地域を対象に、農地林の効率的な利用に向けて、農地林の歴史生態学的な形成過程を解明し、農地林が社会-生態系のなかで果たす機能を明らかにすることである。具体的には、南部アフリカの半乾燥地において広域的に分布し、農地林の主要な構成種であるウルシ科のマルーラ(Sclerocarya birrea)という樹木に注目し、マルーラの機能と南部アフリカのマルーラ文化圏の特徴を解明する。 上記の目的の達成に向け、2年目にあたる平成30年度においては、重点調査地域における歴史生態調査とマルーラの社会-生態機能調査の実施を行う計画を立てていた。この計画を遂行するため、現地調査を実施し、必要であった情報を収集した。また、これらの活動のうち、研究対象地域であるナミビア北部および南アフリカ北東部における空中写真および衛星画像解析はほぼ終了し、マルーラの生育密度の濃淡を把握することができた。また、現地調査の一環として、研究対象地域に関する文献の入手を前年度から継続して実施し、当該地域の人口移動、集落形成、慣習法などについて情報を収集し、衛星画像から地域の植生分布を地図化し、文献から解析した地域の人口分布などの情報とのすり合わせがほぼ完了した。これらの状況から、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度にあたる平成31年度は、重点調査地であるナミビア北部、南アフリカ北東部を対象に、歴史生態調査を継続的に実施し、平成29年度および30年度に把握した情報をさらに精密に検証する。また、重点調査において現地調査を実施し、調査地における農地林の形成プロセスを検討する。さらに、畑に生育しているマルーラの樹冠下の土壌と通常の畑地土壌の成分を解析し、自動撮影カメラを用い、家畜がマルーラを採食する頻度を把握する。 また、隣接する南部アフリカの国々において、空中写真や衛星画像から類似する環境を抽出し、比較調査を行う。そして、現地調査により、マルーラの利用と農地林に関する聞き取り調査を実施し、農地林の成立過程や要因、特色などを把握する。 最終的には、これらの調査内容を総合的に整理し、南部アフリカの半乾燥地域に成立する、マルーラを主要構成種とする農地林の歴史生態学的な形成過程を解明し、農地林が社会-生態系のなかで果たす機能について、全体像を提示する。そして、南部アフリカのマルーラ文化圏の特徴を明らかにし、それを活用した持続的な生業のあり方の提案に結び付ける。最終年度にあたる平成31年度には、上記の研究内容についての成果公表を学会発表や論文発表を通じて積極的に進める予定である。
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Causes of Carryover |
南アフリカでの現地調査の際に使用することを予定していたが、南アフリカ通貨Randの日本円に対する交換レートが想定以上に下がっていたため、残額が生じることとなった。本額については、次年度の調査旅費として使用する予定である。
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