2017 Fiscal Year Research-status Report
フェーズドアレイレーダーを用いた台風環境下における竜巻発生メカニズムの解明
Project/Area Number |
17K13007
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Research Institution | Japan, Meteorological Research Institute |
Principal Investigator |
足立 透 気象庁気象研究所, 気象衛星・観測システム研究部, 主任研究官 (10632391)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 台風 / 竜巻 / フェーズドアレイレーダー |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、気象研究所(茨城県つくば市)のフェーズドアレイレーダーを用いて観測された平成28年台風第9号について事例解析を行った。 台風全体の風速場について、フェーズドアレイレーダーと近隣の気象レーダーを合成して気流構造を導出したところ、上陸から数時間経過した段階で、台風中心部における風の循環の収縮と壁雲における上昇流の急発達が明らかになった。中心に最も近いスパイラル状のレインバンドでは、レーダーで観測される降水域の高度が急上昇するとともに、静止気象衛星では雲頂温度が急低下する様子が捉えられた。これらの観測結果は、上陸後の地表摩擦の効果によって、低層における台風中心への収束と壁雲における対流活動が顕著に強化されたことを示唆する。 次に、台風中心から外側に向けて伸びるレインバンドで発生したメソスケールの鉛直渦の解析を行った。周辺には帯状に連なるいくつもの積乱雲が存在し、その積乱雲群に沿って強いシアラインが生まれている様子が明らかになった。鉛直渦はこのシアラインが大きく湾曲する領域で発生したものであり、シア不安定の効果による渦の発達が示唆された。この事例では地上突風被害の発生は報告されていないが、積乱雲内の鉛直渦はしばしば竜巻発生の原因となる現象として知られ、その解明は極めて重要である。本研究はこのような渦構造の立体的な発達過程を捉えたものであり、台風環境下における竜巻発生メカニズムの解明に資する重要な知見が得られた。 なお、これらの解析過程で、大気境界層に発生する極めて微細な筋状の気流構造(ストリーク)の立体像が捉えられた。ストリークは竜巻とともに地上突風被害をもたらす現象として知られているが、その全容は明らかになっていない。本研究で得られた観測結果は、ストリークの実態理解につながる重要な知見と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度には、年度当初の実施計画にある気象研究所フェーズドアレイレーダーを用いた平成28年台風第9号の事例解析を実施し、台風の広域構造とメソスケールの鉛直渦、およびそれらの関係性を明らかにした。これらは実施計画における要素目標を満たすものである。さらに、研究計画にはないストリークの立体構造の抽出に成功したことに鑑みると、研究は概ね順調に進捗していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は初年度と同様の手法を用いて、他の事例についても解析を行う。特に平成29年台風第3号に伴って埼玉県草加市に発生した竜巻等突風の解析に取り組み、現象の発生メカニズムを解明する。さらに、レーダーから渦構造を検出する手法の開発に着手する。
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Causes of Carryover |
当初計画の物品等について合理的な調達が可能となったため、次年度使用額が生じた。この経費を有効活用し、次年度の研究成果発表等に充てる。
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