2018 Fiscal Year Research-status Report
九州地方を対象とした梅雨前線強化に伴う豪雨発生予測
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17K13009
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
杉本 志織 国立研究開発法人海洋研究開発機構, シームレス環境予測研究分野, 研究員 (90632076)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 豪雨 / 総観場解析 / 広域循環 / 力学ダウンスケーリング |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年7月5-6日に発生した「平成29年7月九州北部豪雨」を対象とし、豪雨の局地的な発生地域・時刻の予測可能性を評価するためのアンサンブル力学ダウンスケーリングを実施した。2010年6月27日06UTC~7月3日18UTCを予報開始時刻とする計540ケースの全球アンサンブル予報システムデータを入力値とした。計算完了後、データを解析ツールにて取り扱えるよう形式変換を行なった。計算結果を確認したところ、降水の再現性が入力するアンサンブル予報システムデータによって大きく異なることが明らかとなった。入力値の予報開始時刻と降水の再現精度との間にはあまり明確な関連が見られなかった。 Asia Oceania Geosciences Society(AOGS)のAnnual meetingにて、昨年度明らかにした「九州地方で豪雨が発生した事例の広域循環場の特徴」を報告した。これと関連して、昨年度に引き続き、積雲対流を伴う低気圧性渦の東方伝播に関する対流圏中層での温度移流との関係について調べた。結果として、平均場では対流圏中層の温度移流が存在するものの豪雨事例においてそれが強化されることは見いだせず、積雲対流の発達に伴う大気加熱が低気圧性渦を維持・強化することが示唆された。 当初の計画にはなかったが、領域大気モデルを用いた大気力学ダウンスケーリングにより、中国の稲作灌漑が梅雨期の九州地方周辺における平均的な水蒸気輸送に対し遠隔的に影響を及ぼすことが示唆された。この成果を論文として投稿し、すでにJournal of Geophysical Research:Atmospheresに掲載されている。水蒸気供給は豪雨の発生において重要であることから、特に豪雨時の広域循環場の特徴を明らかにする研究と関連して本課題の成果に含めたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
梅雨期に九州地方で大雨が発生する時の広域循環場の特徴については、当初計画通り、低気圧性渦と積雲対流との関係について明らかにすることができた。次年度に予定していた低気圧性渦と水蒸気輸送との関係や低気圧性渦の発生要因についてもすでに解析が進んでおり、論文として成果をまとめている段階である。 一方、アンサンブル力学ダウンスケーリングについては、複数の事例を対象とした計算・解析を実施する予定であったが、「平成29年7月九州北部豪雨」事例における降水の再現精度のばらつきが予想以上に大きかったため、1事例の計算をするにとどまっている。今後、再現精度のばらつきについて十分な調査が必要と考える。 広域循環の解析については当初の計画を先行して研究が進んでいるうえに予定にはなかった新たな研究成果が得られた。一方、アンサンブル力学ダウンスケーリングについては研究の進捗が予定通りではない。両者を総合的に判断すると、全体としてはおおむね計画通りに研究が進んでいる。なお、上記2項目はそれぞれ独立しているため、片方の遅れがもう一方の研究に影響を及ぼすことはない。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、すでに十分な成果が得られている九州地方で豪雨が発生する時の広域循環場の特徴について国内外での学会発表や論文投稿により成果を発信していくとともに、特にアンサンブル力学ダウンスケーリング結果の解析に注力する。当初の予定を少し修正して、アンサンブル力学ダウンスケーリングによって得られた結果を精査し、狭域の降水分布パターンを決定する大気場の特徴について明らかにする。加えて、どのような大気循環場が予報できた場合に豪雨の再現精度が高くなるのかについて調査する。可能であれば、別の豪雨事例においても同様の数値計算・解析を実施する。いずれも、九州地方での豪雨再現可能性を明らかにするという本課題の目的に合致するものであり、研究遂行に対する計画修正の支障はない。
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Causes of Carryover |
データ整備に必要なストレージユニット一式が予定よりも安価に購入できたため。また、論文が投稿料が予定よりも安価だったため。
計画当初は予定していなかった国際ワークショップ・国際学会に複数回参加予定である。また、予定よりも数値計算結果の出力データが大きく購入済みのストレージユニットでは不足が生じているため、解析用出力データを保存するための外付けHDDを追加で購入する。
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