2019 Fiscal Year Research-status Report
九州地方を対象とした梅雨前線強化に伴う豪雨発生予測
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17K13009
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
杉本 志織 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(環境変動予測研究センター), 研究員 (90632076)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 豪雨 / 総観場解析 / 広域水蒸気輸送 / 力学ダウンスケーリング |
Outline of Annual Research Achievements |
「九州地方で豪雨が発生した事例の広域循環場の特徴」として、チベット高原上で発生する熱的低気圧が数日かけて九州の北付近に伝播し、豪雨の発生に必要不可欠な多量の水蒸気供給に関与することを明らかにした。この成果を、Scientific Online Letters on the Atmosphere(SOLA)に投稿し、受理・掲載された。論文修正の段階で、チベット高原から東方伝播する低気圧性循環の維持に対し、従来から指摘されてきた雲による潜熱加熱や上層からの高い渦位のほかに、チベット高原から移流する中層の高渦位域の影響があることを示した。 平成29年7月九州北部豪雨を対象とした水平解像度2kmの複数アンサンブル実験結果を用い、局所的豪雨の再現性を左右する要因を分析した。全体として、再現精度があまり高くなかった。再現された降水量は観測値と比べて非常に小さな値であった。降雨発生位置は数値モデル内で表現される周辺地形の影響を受けており、観測と比べるとやや北にずれていた。初期値・境界値に用いた広域大気場(大気安定度、上層寒気、下層水蒸気供給)の違いが再現精度に及ぼす影響については不明瞭であった。言い換えると、入力データに起因する再現精度の低下ではないことが示唆された。考え得る要因として、非常にローカルな風系や水蒸気分布、それらをコントロールする詳細地形の重要性が挙げられる。つまり、水平解像度2kmではこれが十分に表現できなかった可能性がある。 本研究で用いた手法が他地域にも展開できる可能性を探るべく、水平解像度2kmの数値実験を世界屈指の山岳域であるヒマラヤで適用した。試験的実験の結果として、山岳斜面の降水量は地形の解像度に強く依存する可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
梅雨期に九州地方で大雨が発生する時の広域水蒸気輸送については、当初計画通り、論文として成果をまとめ、SOLAに投稿、R1年度内に受理・掲載された。論文修正の段階で、チベット高原から東へ伝播する擾乱の維持に、積雲に伴う潜熱加熱や上層の渦位が影響していることも新たに理解できた。一方、アンサンブル力学ダウンスケーリングについては、対象とした「平成29年7月九州北部豪雨」の再現精度が思わしくなかったため、当初計画を変更して、再現精度を左右した要因を分析した。局所的な大気場や詳細地形の重要性が示唆されるとともに、非常に予測が難しい豪雨事例であったことを改めて示すことができた。また、試験的ではあるが、日本とは異なる気候帯に属する山岳域への研究展開を目的とした数値実験を実施することができた。 アンサンブル力学ダウンスケーリングについては上記の通り、一部当初計画の変更があったものの、予測可能性を探るという点では目的を達成できたと考える。また、大雨発生時の広域循環場解析については、当初計画通り、論文が出版された。全体として、概ね計画通りに研究が進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画では、年度内に受理された論文の内容を国外学会で発表する予定であったが、論文の査読に時間を要し、受理が令和元年12月となったため、学会発表ができなかった。そのため、補助事業期間延長申請を行い、R2年度中に研究成果を国際学会等で発表する予定である。
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Causes of Carryover |
H29年度、H30年度に購入したデータ整備に必要なストレージユニット一式が予定よりも安価であったため。また、論文投稿料が予定よりも安価だったため。 論文成果を公表するため、国際学会に参加予定である。
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