2018 Fiscal Year Research-status Report
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17K13164
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
篠原 康男 立命館大学, 共通教育推進機構, 嘱託講師 (50755535)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 疾走速度変化 / 数式化 / 加速 / パワー発揮 / 技能と体力 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はまず,加速疾走中に発揮するパワーと下肢関節(脚)が出し得る最大パワーの関係について,さらに検討を進めた。学生短距離選手19名に,静止状態からの最大努力での70m走を行わせた。試技中の疾走速度変化をレーザー式速度測定器により測定し,最大疾走速度や疾走中に発揮された力およびパワーを算出した。また,被験者の下肢の力およびパワー発揮能力について,鉛直方向への跳躍時に発揮する脚伸展パワーの測定(5段階の異なる負荷の反動なし垂直跳び)を行った。なお,得られたパワーの値は被験者の体重で除し,相対値とした。分析の結果,跳躍時の鉛直方向への最大パワーは加速疾走時の水平方向への最大パワーに比べて有意に大きかった。しかし,これらの最大パワーの間に有意な相関関係は認められなかった。加速疾走時の水平方向へのパワーは,跳躍時の鉛直方向への脚伸展パワーを元として,どの程度水平方向に発揮できたかであると捉えると,加速疾走におけるパワー発揮には選手間でスキル差が存在するものと推察された。したがって,発揮し得る脚伸展パワーをトレーニングで向上させるだけでなく,加速疾走で水平方向に大きなパワーを発揮できるように変換(transfer)する練習やトレーニングも重要となることが示唆された。 また,これらの結果を踏まえ,加速疾走時のパワー発揮に関するトレーニング方法に着目して検討を進めた。加速疾走のパワー発揮トレーニングで広く用いられている「アップヒルスプリント」を対象に,疾走速度変化および発揮される力とパワーを測定し,平坦な走路での疾走時と比較した。その結果,傾斜走路での疾走では最大疾走速度が低下するものの,加速初期の低い速度では発揮される力が有意に大きくなり,パワーも増大していた。このことから,傾斜走路を用いた走トレーニングは,力発揮要因による走パワー発揮の向上に貢献する可能性があることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は,走運動におけるパワー発揮能力の評価およびその評価手法を確立することである。本年度は当初の計画で予定していた,疾走中に発揮したパワーと出し得る下肢関節の最大パワーの関係について,被験者を追加して測定を行うことができた。その結果,鉛直方向への跳躍時の脚伸展パワーと水平方向への加速疾走時の走パワーの間には有意な相関関係が認められず,両パワーを用いて算出したスキル値にもばらつきがみられていた。このことから,被験者間で加速疾走時の水平方向へのパワー発揮スキルには差があるものと推察され,脚伸展パワーの向上とともに疾走においてパワーを発揮することのスキル向上を図ることが重要であると示唆された。この結果は本研究の目的達成に繋がるものであり,おおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に得られた結果に関して,加速疾走時のパワー発揮トレーニングに着目し,広く用いられているものの一つである「アップヒルスプリント」での疾走速度と力およびパワーの時間変化を測定したところ,発走後(加速初期)の低い速度では発揮される力が有意に大きくなり,発揮されるパワーも増大することが明らかとなった。この結果は,傾斜走路を用いた走トレーニングが,走パワー発揮能力の向上に貢献する可能性を示すものであり,本研究の目的にも深く関わるものである。また,本年度の測定において,傾度は1種類であったが,様々な傾度の走路での測定や「ダウンヒルスプリント」での測定を行うことで,これまでとは違った観点から走パワー発揮能力の評価を行うことも可能になることが予想される。これらのことから,当初予定していた複数の競技種目を対象とした測定および種目間の能力比較を行う前に,走パワー発揮能力やその評価法に関する検討をさらに進めておく必要があると判断し,次年度は傾斜走路を用いた走運動におけるパワー発揮能力に関する検討を進める。具体的には,異なる傾度での加速疾走時における疾走速度変化と力およびパワーを測定し,傾度間の比較や鉛直方向への脚伸展パワーとの関係を検討することを予定している。そして,これまでに得られた結果と合わせて,本研究の目的達成を目指す。
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Causes of Carryover |
昨年度から繰り越した助成金は,学会発表のための旅費(国際学会含む)に充当した。また,本年度および今後の実験・測定で使用する測定機器も購入できた。ただ,論文投稿の準備が遅れており,投稿にかかわる英文校正および論文掲載料として計上していた費用が繰越金となった。繰り越した助成金は,次年度の助成金と合わせて,論文投稿の準備費用や次年度に実施する測定に伴う費用,次年度の学会発表のための旅費として使用する予定である。
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