2019 Fiscal Year Research-status Report
結合型アスパラギン酸異性化は老化の新たな指標となりうるか?
Project/Area Number |
17K13221
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高田 匠 京都大学, 複合原子力科学研究所, 特定准教授 (80379007)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | D-アミノ酸 / アスパラギン酸 / 異性化 / 脱アミド化 / クリスタリン / 質量分析 / 加齢性疾患 |
Outline of Annual Research Achievements |
代謝機能の乏しい組織中の蛋白質内部では、加齢に伴い、蛋白質構成アミノ酸の自発的修飾が蓄積してゆく。ヒト体内環境下で蓄積するアミノ酸の代表的な自発的修飾としてアスパラギン酸残基(Asp)の異性化を挙げる。眼球内の水晶体構成蛋白質中や脳内Aβ中のAsp異性化率は加齢性白内障やアルツハイマー病など加齢性の蛋白質異常凝性疾患と相関する。したがって、その定量解析は各々の蛋白質異常凝性疾患の早期発見や疾患進行バイオマーカーとして有用であると考えられる。 我々は、従来より質量分析をベースとする独自の異性化Asp分析手法を開発して利用してきた。本年度は、トリプルQ型の質量分析装置と、その長所であるMultiple Reaction monitoring(MRM)法を工夫して用い、より高精度の異性化Asp定量法を開発した。また、In vitroにおいて蛋白質内部Aspの異性化に影響を及ぼす因子を評価するためには、迅速に異性化するAspを含むモデル蛋白質が必須である。そこで、異性化反応が容易に生じるモデル蛋白質の作製を念頭に、蛋白質中アスパラギン残基(Asn)のAspへの脱アミド化反応に着目した。AsnのAspへの脱アミド化反応過程では、温和な条件下でAspの異性化と同じ5員環イミド中間体が形成される。それ故、仮にAspが異性化しやすい特殊な場に存在するのならば、その部位ではAsnに関しても容易に脱アミド化を経由し、他3種類のAsp残基へと異性化すると考えた。この仮説を証明するため、加齢後ヒト眼内水晶体中で、迅速に異性化するαA-crystallin (以下、αA-cry) 内151番目のAspをAsnに置換したモデル蛋白質(以下、αA-D151N)を作成し、温和な条件下でAsn151が5員環イミドを経由し、異性化Aspへと変化するか否かを調査した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、トリプルQ型の質量分析装置を用いたMRM法ベースの高精度異性化Asp(およびAsnの脱アミド化)定量手法を開発した。本手法では事前に標品ペプチドを準備し、それぞれ精密な条件検討(最適化)を行う必要があるため手間を要し、かつ網羅性には乏しい。しかし一方で従来の手法よりもおよそ10倍以上の分解能を得ることができた。標品としてαA-D151Nの内部配列を有する化学合成ペプチドを用意し、MRM法へと用いて異性化Asp定量メソッドの作製を進めた。この際に、Asn脱アミド化定量用のメソッドと、Asp異性化用の両メソッドを組み合わせ、一つのペプチドから両方の修飾を同時定量することが可能となるメソッドを作製した。これを用いて次の実験を遂行した。 まず、In vitroにて脱アミド化と異性化を引き起こすため、大腸菌を用いて作製したαA-D151Nを50°Cにて加温した。次に、加温後のαA-D151Nをトリプシン消化した後、生じたペプチド断片をnanoスケールの逆相クロマトグラフィーを用いて分離し、最後にMRM法ベースの異性化Asp分析手法を用いて両修飾率を算出した。 脱アミド化率および異性化率を野生型(通常αA)のものと比較した結果、αA-D151N内部のAsn151は、通常αA中のAsp151よりも約10倍早く異性化することが明らかとなった。その原因としては、Asn側鎖には存在せず、Asp側鎖には存在する負電荷の存在を考えている。脱アミド化および異性化反応の初期段階は、側鎖とペプチド結合上窒素に局在する不対電子対との反応だが、この初期反応がAsp側鎖上の負電荷により阻害されるのではないだろうか。また得られた異性体は主としてL-β-Aspであった。生体内部ではD-β-Aspが見られるため、vivoには本部位のAspをL体からD体へと置換する興味深い機構が存在することが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
質量部分析とMRM法をベースにする異性化分析手法では、標的ペプチド理論分子量(脱アミド化ピークも含む)とペプチドに由来する同一のフラグメント質量を用いてクロマトグラム中から脱アミド化生成物および各異性化Aspの有無を確認する。各ピークを帰属する必要があり、この際に、Asn含有ペプチド由来のピークや各異性化Asp含有ピークなどの溶出時間が重複し、分析が困難になる場合があった。この課題を克服するべく、今後は各異性化Asp認識酵素やトリプシン以外の消化酵素などを併用し、様々な加齢後組織へと用いて核疾患マーカーとなりうる目的部位の修飾生成物同定に取り組む。 また今回、vitroとvivoで異性化生成物が異なるという興味深い結果が得られた。本年度は簡易な加温実験で異性化を誘導したが、よりvivoの環境に近づけた加温実験や、細胞を用いたAspラセミ化酵素のスクリーニングなどを計画している。これらを進め、vivoにのみ存在するD-β-Aspへの異性化機構を明らかにすることが今後の研究の推進方策である。
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Causes of Carryover |
質量分析装置の交換に伴い、新しい装置の調整や、旧装置との実験結果の再現性確認が必須となり若干の遅延が生じた。また、その際に得られた一部の成果報告を次年度に行うこととし、2019年度の未使用額を経費に充てることとした。
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Research Products
(10 results)