2017 Fiscal Year Research-status Report
「子どもの居場所」を支える支援者の専門性に関する研究
Project/Area Number |
17K13256
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Research Institution | Miyazaki International College |
Principal Investigator |
山下 智也 宮崎国際大学, 教育学部, 准教授 (50601697)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 居場所 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、全ての子どもに開かれた居場所を支える支援者(主(あるじ))の専門性を明らかにすることを目的とし、「子どもの居場所」として先進的な複数の事例(2~4か所)へのフィールドワークを行うことで、多面的に分析を試みている。 平成29年度において、まず調査対象地である先進的な事例のうち、メインとなる居場所(子どもの遊び場「きんしゃいきゃんぱす」)に焦点を当て、フィールドワークを重ねるとともに、類似の居場所にも足を運んだ。 研究の初年度ということもあり、具体的なインタビュー調査や行動場面分析に入る前に、フィールドワークを重ねることで、子どもたち及び周囲の人々とのラポールを形成(再形成)した。また、その居場所のみならず、その居場所を取り巻く社会的・物理的環境にも目を向け、記録を重ねてきた。それらを通して、研究の下地が十分に整ってきたと感じている。 その居場所における子どもの過ごし方や、主となるスタッフの居方・かかわり方に注目し、エスノグラフィックに記録をしている。特に「主(あるじ)の管理型ではない関わり方」や、「子どもたちの導線や状況の変化に応じてしなやかに居方を変化させている点」が興味深かった。また、環境心理学・環境行動学的観点から、その居場所の広さや空間の広がりにも着目した。特に居場所の空間性において、同じ濃度の空間ではなく、「セミプライベートスペースからセミパブリックスペースまでの濃度のグラデーション」が生まれており、それが居場所形成過程において一定の役割を担っている様子が浮かび上がってきた。今後、それらの環境面も視野に入れながら、インタビューやエピソード分析を通して、主の専門性を立体化させ、現存する居場所実践の一助としたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、本研究の遂行のための予備的調査およびラポール形成が主となっており、それらは着実に進めることができていると考えている。特に、メインとなるフィールドには頻繁に足を運ぶことができたことで(1週間丸々滞在したこともあり)、かなりの手応えが得られている。 当初の計画では、「(1)支援者の“居場所観”を表出させる(インタビュー調査、テキストマイニング、KJ法等)」、「(2)環境心理学・環境行動学的観点から“場の特性”を読み解き“居場所観”に迫る(行動場面分析、多面的空間分析等)」、「(3)“支援者と子どもとの関係性”を モデル化する(エピソード分析)」の3ステップを想定し、特に平成29年度については、(1)(2)を重点的に行う予定であった。(1)については、改めて現場の特性を精査した際、支援者(主)の居場所観を表出させるには、テキストマイニングやKJ法よりも、インタビュー調査および(3)で行う予定であったエピソード分析が適すると判断し、そちらに力を入れて進めている。また、(2)については、物的環境の特徴や空間の濃度の連続性など、多面的な分析を進める中で、様々な知見を得ることができた。その成果の一部は、「人間環境学会」の自主シンポジウムの中でも報告している。また、(3)についても、できる限りエピソード記述をスタートし始めている。それぞれの進度には多少の差異はあるものの、総じて見たときに、「おおむね順調に進展している」と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策には、大きく2つの柱がある。 一つは、これまでラポールを形成し、研究の下地を整えてきた、子どもの遊び場「きんしゃいきゃんぱす」へのフィールドワークをより深化させることである。環境面での分析は進んできたものの、まだ十分に深めることができていないため、今後はビデオカメラをさらに活用するなどして、居場所の空間性について検討したい。また、ラポール形成の過程において、主となるスタッフとのインフォーマルなコミュニケーションは深めてきているものの、まとめてのフォーマルなインタビュー調査には踏み切れていないため、今後は、これまでのフィールドワークで浮かび上がってきた知見をもとにインタビュー内容をブラッシュアップし、具体的なインタビュー調査へと入っていきたい。エピソード分析については、少しスタートさせて入るものの、いよいよ本格実施であると考えている。それらの成果については、適宜、関連学会等での発表に臨み、議論を重ねていくことができればと考えている。 また、フィールドワーク研究という特性上、平成29年度は主に1つの現場に焦点を当てて行ってきたが、今後は比較対象となる他の居場所実践に足を運ぶことで、共通点や相違点に着目し、各居場所の特性をより明確にしたい。 それらを通して、本研究の目的である「全ての子どもに開かれた居場所を支える支援者(主(あるじ))の専門性」を明らかにするとともに、その知見を実践現場に生かすことのできるような形に「翻訳」して、実践現場に還元できるような筋道を描くことができればと考えている。
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Causes of Carryover |
当初は、早いうちから、メインとなる研究対象地である居場所のみならず、比較対象地となる居場所にフィールドワークに行くことを想定し、旅費の支出を多く見込んでいたが、実際にフィールドワークを始めていった際、メインとなる研究対象地にしっかりと足を運び、ラポールを形成(再形成)していくことが重要と考え、結果的に近隣の居場所へ足を運ぶことが多くなったため、若干の金額に余りが生じたということになる。ただ、その額もそこまで大きな額ではないため、平成30年度に予定通り研究を遂行することで、調整できると考えている。
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