2017 Fiscal Year Research-status Report
パーキンソン病原因因子DJ-1が、酸化環境のセンサーとして働くメカニズム
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17K13258
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
加藤 いづみ 北海道大学, 薬学研究院, 助教 (40634994)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 酸化ストレス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではパーキンソン病原因因子DJ-1の酸化価数変化によるタンパク質結合能や神経細胞内挙動に着目することにより、酸化ストレスレベルに応じた神経細胞死制御機構の解明を行う。 神経変性疾患の一つパーキンソン病の発症機序の一つに、酸化ストレスによるドパミン作動性神経の細胞死がある。しかし、酸化ストレスが神経細胞で、細胞死をおこすメカニズムは未知である。DJ-1 Cys106のSH基は酸化後、段階的に酸化価数変化を起こす。しかし、酸化価数に着目した分子タンパク質研究とタンパク質結合や細胞死を判定する細胞生物学研究が個別に行われていたため、DJ-1の酸化価数に応じた結合タンパク質選択のメカニズムや神経細胞死制御機構は明らかではなかった。DJ-1は酸化ストレス条件下でp53に結合し、細胞死を抑制する。そこで、本研究ではDJ-1-p53結合に着目し、パーキンソン病の発症原因である神経細胞死における、DJ-1の司令塔としての役割を解明する。 DJ-1の活性体と考えられているSO2H型DJ-1を模した酸化型DJ-1変異体を作成することに成功し、酸化処理しない酸化型DJ-1変異体が、酸化処理した野生型DJ-1と同じく、酸化型DJ-1認識抗体で検出されることを予備実験で確認していた。これに加え、平成29年度は酸化部位である106番システイン残基以外の残基に変異をいれることで、システイン106残基のSH基が酸化されない恒常的還元型DJ-1変異体を新たに作成した。また、これらDJ-1変異体、酸化処理を行った野生型DJ-1とp53の結合をゲル濾過クロマトグラフィー、ウェスタンブロッティングで検出することに成功し、等温滴定型熱量計においても、結合アッセイ系を構築している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は1.DJ-1酸化価数の制御とその判定、2.酸化価数の異なるDJ-1のp53結合能の比較を予定していた。1.DJ-1酸化価数の制御とその判定に おいては、溶液中でDJ-1が容易に酸化されることから、DJ-1を酸化処理し、各酸化型に調整を行っても、その後のp53との結合実験、数日から数ヶ月かかるp53との共結晶化試行中に酸化度を維持することが困難であると判断し、恒常的酸化型DJ-1変異体と恒常的還元型DJ-1変異体を新たに設計、作成し、それをp53との結合実験、共結晶化へ用いることとした。恒常的還元型DJ-1変異体では、今後予定している酸化段階特異的DJ-1結合タンパク質の探索では、活性残基の変化による結合変化の可能性を排除して、結合因子を探索できる。また、酸化価数の判定は、DJ-1変異体単独での結晶化を行い、Cys106部位を解析することで、予想通り、Cys106が酸化されず、チオールとして存在することが確認できた。2.酸化価数の異なるDJ-1のp53結合能の比較では、各DJ-1とp53を混合後、ゲル濾過クロマトグラフィーで分離を行ったところ、酸化処理を行った野生型DJ-1、恒常的酸化型DJ-1でのみ、高分子側へシフトが見られ、その後のウェスタンブロッティングでも溶出画分の変化が検出できた。このシフトは恒常的還元型DJ-1変異体では起こらなかった。このことから、p53が酸化型DJ-1とのみ結合することが明らかとなった。この実験中、DJ-1とp53の結合には、補因子が必要であることも見出しており、現在、補因子を含む条件で等温滴定型熱量計でのアッセイ系を構築中である。酸化価数を制御した変異体の作成と結晶化による酸化価数の判定が行えたこと、DJ-1が酸化価数の違いでp53との結合を変えることを明らかに出来たことから、研究は概ね順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
DJ-1とp53の結合には補因子が必要であることをH29年度の実験より、明らかにした。H30年度はこの条件を元に、等温滴定型熱量計を用いて、DJ-1-p53相互作用各パラメーターを測定する。等温滴定型熱量計では、タンパク質の固定化を必要としないため、すでに結合によるシフトが確認されているゲル濾過クロマトグラフィーの溶液条件でアッセイを行うことができると考えている。さらに、DJ-1とp53の共結晶化においても補因子を加えた条件で試行する。H29年度の研究で、恒常的酸化型DJ-1、新たに作成した恒常的還元型DJ-1単独の結晶化に成功している。これらを用いて、共結晶化を試行し、その複合体構造から、DJ-1のシステイン106残基の価数変化に伴う構造変化が結合タンパク質選択にあたえる影響を明らかにしていく。また、恒常的酸化型DJ-1、恒常的還元型DJ-1の細胞発現系用プラスミドを作成し、各酸化型DJ-1の神経細胞内局在観察や各酸化型DJ-1の神経細胞死抑制機能解析を行う。これらの解析には、SH-SY5Y細胞から、遺伝子改変ツールCRISPR-Cas9システムによりDJ-1遺伝子をノックアウトし、当研究室にて作製したDJ-1ノックアウトSH-SY5Y細胞を用いる。これにより、酸化価数が単一化しない野生型DJ-1の影響を排除して、観察、測定を行うことが可能である。これらの実験により、DJ-1の酸化価数変化に応じた、構造変化や神経細胞内挙動を明らかにし、パーキンソン病の発症原因である細胞死におけるDJ-1の司令塔としての役割を解明する。
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Causes of Carryover |
当初、タンパク質を発現させた大腸菌の破砕行程にはフレンチプレスの使用を予定していた。しかし、条件を検討することで当研究室に現存する超音波破砕機で安定的に破砕することが可能となった。このため、予定していたフレンチプレスの購入を見送り、次年度使用額が生じた。 次年度使用額の使用計画には、神経細胞内局在観察や神経細胞死抑制機能解析を行うために使用するプラスミド作成用試薬を購入と共に、新たに導入したゲル濾過クロマトグラフィーを用いたアッセイを行うため、カラムの購入を予定している。また、数多くのDJ-1結合因子が報告されているものの、DJ-1との共結晶構造を報告している例は今までにない。共結晶化試薬を予定に追加して、購入し、共結晶化試行を精力的に進めたいと考えている。さらに、今年度途中より、本研究に使用していた一部の機器がオープンファシリティ化することに伴い、機器使用料金が発生する。この使用料金にも新たに予算を充てていく予定である。
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