2019 Fiscal Year Research-status Report
パーキンソン病原因因子DJ-1が、酸化環境のセンサーとして働くメカニズム
Project/Area Number |
17K13258
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
加藤 いづみ 北海道大学, 薬学研究院, 助教 (40634994)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 酸化ストレス / DJ-1 / 分子間相互作用 / p53 / パーキンソン病 / 癌 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ストレスのレベルに応じたDJ-1酸化価数変化が、DJ-1機能を変化させ、その相互作用因子を変化させることで、酸化ストレスのレベルに応じて、神経細胞死を制御すると予測。精製タンパク質を用いたin vitro実験と神経細胞を用いるin cell実験を組み合わせることで、酸化レベルに応じた神経細胞死抑制機構を分子レベルから明らかにする。 これまで、免疫沈降実験により、多くのDJ-1の相互作用因子が同定されてきた。しかし、DJ-1は容易に酸化されるため、DJ-1Cys106のSH基の酸化を、SOH、SO2H、SO3Hの各段階に止めることが出来ず、個々の酸化価数のDJ-1の相互作用因子を区別出来ていない。さらに、酸化型DJ-1認識抗体ではCys106周辺を認識していると予想されるため、Cys106部位変化を認識して結合するタンパク質とDJ-1の複合体を免疫沈降することはできない。本研究では、Cys106以外の残基に変位を入れた、恒常的酸化型DJ-1を用いることで、複合体を壊すことなく、実験を行う。研究にあたり、DJ-1Cys106の酸化価数の変化にのみ、着目するために、従来のDJ-1研究に広く用いられてきた還元型DJ-1のモデルであるDJ-1C106Sではなく、Cys106以外の残基に変位を入れた、還元型DJ-1モデルを前年度までに作成済みである。 今回は、これら変異体の細胞発現系用プラスミドを用いて、DJ-1の酸化価数の違いによる神経細胞死抑制効果をMTS assayにて解析し、恒常的酸化型DJ-1が野生型DJ-1と同様に、酸化ストレス後の細胞死抑制に働くことを明らかにした。他に、DJ-1ノックアウトドパミン作動性神経細胞へ恒常的酸化型DJ-1の精製タンパク質を添加し、プルダウン実験を行うことにより、恒常的酸化型DJ-1結合因子を、質量分析計を用いて同定中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
DJ-1ノックアウトドパミン作動性神経細胞SH-SY5Y細胞へ野生型DJ-1, 還元型DJ-1および恒常的酸化型DJ-1発現プラスミドを導入し、酸化ストレス後の神経細胞死をMTS assayにて解析した。その結果、野生型DJ-1同様、恒常的酸化型DJ-1が酸化ストレス後の神経細胞死を抑制することを明らかにした。この抑制効果は、還元型DJ-1では、起こらなかった。SO2H型DJ-1の生物学的等価体として作製した、恒常的酸化型DJ-1が神経細胞死抑制効果を示したことから、恒常的酸化型DJ-1が野生型DJ-1の酸化型と同様のフェノタイプを示すこと、さらに各酸化型DJ-1のうち、SO2H型DJ-1が細胞死抑制に働くことを今回新たに示せた。また、これまでの研究では、還元型DJ-1のモデルとして、DJ-1C106Sが用いられてきたこと、酸化ストレスを加えない条件でも、酸化型DJ-1がわずかながら、発生することから、Cys106のSH基が還元状態であることが細胞死抑制に働かないということを明確に示せてはいなかった。今回、Cys106以外の残基に変位を入れた還元型DJ-1モデルが、細胞死抑制効果を示さなかったことから、DJ-1Cys106のSH基が還元型であるDJ-1は細胞死抑制効果を持たないことを明確に示すことができた。 質量分析においては、高感度で分析可能なwaters AQUITY UPLC/Xevo G2-S Q Tofを用いて、判定を行っている。質量分析を行うための、サンプルの調整法を確立し、コントロールサンプルを用いて、pmolオーダーのタンパク質量まで同定が可能なレベルに機器の条件を調整した。しかし、Xevo G2-S Q Tofが不調をきたし、数ヶ月にわたって、使用できない状況となり、酸化型DJ-1特異的結合因子の同定には至っていないため、期間を延長して、研究を行う。
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、2019年度に引き続き、酸化ストレス後の神経細胞死抑制に関与するDJ-1結合因子の同定を進める。結合因子の同定は、SH-SY5Y細胞より、遺伝子改変ツールCRISPR-Cas9システムにより、DJ-1遺伝子をノックアウトして作製したDJ-1ノックアウトSH-SY5Y細胞へ、恒常的酸化型DJ-1を導入した後、プルダウンを行い、waters AQUITY UPLC/Xevo G2-S Q Tofを用いて行う。2019年度のMTS assayにて恒常的酸化型DJ-1が酸化ストレス後の神経細胞死を抑制することが明らかとなった。結合因子同定においても、酸化ストレスによる結合因子側の修飾変化の必要性を考慮し、DJ-1ノックアウトSH-SY5Y細胞へ酸化ストレス処理を行い、恒常的酸化型DJ-1とのプルダウンに用いていく予定である。
|
Causes of Carryover |
質量分析用試薬が、機器不調で解析が行えなかった期間があったため、当初予定よりも使用量が少なかった。次年度において、質量分析用試薬を購入すると共に、オープンファシリティ化に伴い、発生している解析機器の使用料にも予算を使用する。
|