2019 Fiscal Year Research-status Report
エジプトのナショナリズムにおける民族概念と宗教的アイデンティティ
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17K13293
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
三代川 寛子 東京外国語大学, 世界言語社会教育センター, 講師 (90614032)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | エジプト / 近代史 / ナショナリズム / コプト |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、エジプトの国史の中でコプトの歴史がどのように位置づけられたのかという点に焦点をあてて研究発表を行った。 まず、現在のエジプトの歴史教科書では、「コプト期(al-hiqba al-qibtiya)」とは1世紀後半の聖マルコによるキリスト教布教から7世紀前半のイスラーム到来までをカバーする時代であるが、この時代区分および呼称がいつ頃から現れてきたのかという点を調査した。 結果、1920年代~30年代頃であることが推測される状況証拠は見つかったが、資料収集が思うように進まず、2019年度中の調査ではこの説を支持するより確かな証拠は見つからなかった。 この調査を通して、19世紀末から20世紀最初の数十年間には、コプトの歴史家らが複数の歴史書を著しており、そこでの時代の区切り方はさまざまであること、そしてエジプトにおけるキリスト教布教以前の時代の扱いもさまざまであることが明らかになった。また、19世紀以前のコプトの歴史叙述はもとより、同時代のムスリムのエジプト人による歴史叙述、ヨーロッパ人の歴史叙述などからも影響を受けていることから、当初の想定よりも広範な史資料を精査する必要があると判明した。また、歴史の叙述についてのみならず、政治社会情勢も考慮に入れる必要があり、1922年のエジプト独立以後の経済のエジプト化とそれに伴うコプト富裕層のエジプト社会における存在感の高まり、教育制度の整備・拡充など多くの論点との関連を議論する必要もあることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
資料収集が思うように進まなかったため、研究成果を論文にまとめて発表することはできなかったが、少なくとも学会発表を通して問題提起をすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
オーストラリアのコプト共同体で、コプトに関する書籍・雑誌のデジタル・アーカイブが整備されつつあるので、それを活用すると共に、そのアーカイブを運用している人びとと密に連絡を取って資料収集を効率的に進めていきたい。 2020年度は海外での調査および資料収集が難しくなると思われるため、国内外の図書館のさまざまなサービスを駆使し、かつ国内外の研究者らと情報交換を密にして対処したい。
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Causes of Carryover |
エジプトに資料収集に行くための旅費を他の資金から調達できたため。 次年度使用額は、旅費よりも、資料収集のための謝金、書籍の郵送費、書籍購入費などに充てる予定である。
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