2017 Fiscal Year Research-status Report
有料化する聖地:宗教空間の経済的ゾーニングと公共的管理に関する観光学的研究
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17K13313
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
門田 岳久 立教大学, 観光学部, 准教授 (90633529)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ゾーニング / 公共空間 / 聖地 / 入場料 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は聖地の観光化にともなう、経済的な空間管理に関する民族誌的研究を行うものである。具体的には観光地化された聖地を公共空間の一種と捉え、その経済的管理が地域社会や在来の文化にもたらす影響評価を行うことである。H29年度は、沖縄県南城市の伝統的な聖域をフィールドに、入場料導入の背景や導入過程に関する調査を行った。同市では斎場御嶽の世界遺産登録(2000年)や久高島への観光客増に伴い、聖域の管理という課題が2000年代半ば以降立ち上がり、入場料は環境維持への資源として利用されるだけでなく、観光客の急激な増加を抑制する装置としても導入されたことが明らかになった。他方で、業績(「聖地を担う―「生きた信仰」をめぐる斎場御嶽のコミュニティ管理」)の中でも指摘したように、この聖地で年中行事や儀礼を行ってきた地域住民からは入場料導入に必ずしも同意が得られておらず、足が遠のいているという声がインタビューを通じて浮かび上がってきたため、経済的な空間管理がローカルにおける分断を招いている側面もある。 このように経済的な空間管理は合意形成上の困難を伴うことから、行政による総合開発計画が進む同市の久高島では、いわゆる入島料導入に関して慎重な議論が進んでいる。ただ、様々な批判を招きながらも聖地や村落空間が入域のための代金を徴収するか否かの議論を行わざるをえない背景には、観光客が多数訪れても一部の業者(例えば飲食店など)が利益を得るだけで地域には利益がなく、観られる存在として消費されていくのみだという、観光消費の構造的問題があることも明らかになった。長崎のキリスト教会群の世界遺産登録など、観光と宗教との融合が進む状況に対し、本研究課題とその成果は応用可能性があるとともに、観光学の概論に組み込んでいくことが喫緊の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の進捗のうち、理論的な検討においては人類学・社会学・人文地理学における空間論をレビューする中で、いわゆるジェントリフィケーション研究やその背景にある新自由主義、民営化論を本研究課題に接続しえたことが成果の一つである。新自由主義的な発想に基づく空間管理では、公共空間を私企業の営利活動に開くことによって空間利用者や居住者の排除や選別が生じることが指摘されている。聖域の観光地化に伴い、行政が主体となって経済的な空間管理を行うのは一方では公共空間化の側面を有しているが、他方では金銭的対価を支払う者のみに空間を開放し、入場料等によって利潤を生み出していこうとするプライヴァタイゼーションの側面も同時に有している。沖縄・斎場御嶽の参与観察やインタビュー調査から得たデータをもとに、こうした聖地をとりまく両義的性格の発生について口頭報告したこと(東北人類学談話会「聖地のプライバタイゼーション:場所の商品化と〈信仰〉のゆくえ」)は、本年度の計画進展を示していると自己評価しうる。 現地調査においては南城市が行うエコミュージアム構想、並びに久高島総合開発計画に立ち上げの時期からヒアリング調査を行うことができ、こうした行政主導の開発計画における伝統的な宗教儀礼や聖域の位置づけが定位されていく具体的な議論や作業プロセスを観察できたことも、研究計画上の貴重な進捗であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
概ね研究計画通りに進捗していることを踏まえ、今後の推進方策も基本的に当初の計画通り進めていく方針を採る。2年目にあたるH30年度は、入場料収入の増加が地域の生業や経済活動にもたらした影響を調査、分析することを主眼とする。とりわけ、聖地や街並みといったこれまで経済的利潤の資源となってこなかったものが観光化や文化遺産化のあおりで金銭的利害の資源となり、突如現金収入が得られたことが、ローカルな生業や経済にいかなる影響を与えうるのか、民族誌的な手法に基づいた精緻な調査が求められる。そこでまず民俗学、村落社会学、文化人類学のコミュニティ研究から、工場進出や漁業補償金、道路建設など唐突な現金収入に伴う生業構造の転換に関する研究をレビューし、本課題のような観光化に伴う生業変化を分析する枠組を確立させる。次に聖地の有料化が管理にあたるボランティア団体の生計にどの程度の加算となっているか生活史調査を行う。併せて比較事例として、近年入村料の徴収を始め大きな現金収入を得ることになった新潟県佐渡市のある集落をフィールドに、入村料導入過程、運営体制、収入の活用状況に関し聞き取り調査を行う。
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Causes of Carryover |
沖縄県久高島での調査を当初2017年9月にも実施する予定であったが、同7月の南城市での調査の際に行政担当者との協議を通じて調査計画を変更し、10月末に実施することとした。理由はその時期に研究に関わる市主導開発計画会議が実施されるため、それに併せて調査を行うことにしたためである。時期的に航空券代金等の経費が安価に済み、また現地協力者の都合上調査期間を圧縮したため、当初予定よりも使用額が少額に納まることとなった。計画遂行上大きな遅れが生じたわけではないが、調査日数がやや短くなった分現地でのインタビューデータは予定した分量には達しておらず、そのための調査はH30年度に実施するものとする。従ってH30年度は本調査の為の旅費に主に使用する。
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