2020 Fiscal Year Research-status Report
有料化する聖地:宗教空間の経済的ゾーニングと公共的管理に関する観光学的研究
Project/Area Number |
17K13313
|
Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
門田 岳久 立教大学, 観光学部, 准教授 (90633529)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 地域開発 / 空間管理 / 道路整備 / インフラストラクチャー / モビリティ / ゾーニング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は生活領域、宗教的空間、路地、農耕地など在来の「生きられた」空間が、地域開発、文化遺産化、観光化など様々な開発現象に接することで改変の対象となり、私的なものから公共的な空間へと変化していくプロセスと、それが在来の生活に及ぼす正負の影響を、人類学的なアプローチで研究するものである。とりわけ市場価値によって資本に領有化される空間をいかに保護し、住民生活や宗教性を維持していくかという空間管理の手法が成立するプロセスとその具体的状況を、制度、物質性、人々の意識に焦点をあてて明らかにしようと試みている。 当初の最終年度に当たる2020年度は、新型コロナウィルス感染症の拡大および緊急事態宣言等により、予定していた現地フィールドワークが遂行できなかったため、研究期間を1年後ろ倒しにしつつ、これまで蓄積したデータ並びに文献資料を用いた成果報告に重点を置いた。 具体的には2点に集約できる。第一点は、戦後日本の国土開発と道路建設が、村落空間や人々の日常に及ぼした生活意識上の変化、空間認知の変化などについて明らかにした。特に、新潟県佐渡島における離島振興法(1953年制定)に基づく開発行為の結果整備された高規格の車道がもたらした労働環境や社会関係の変化に注目するとともに、島に訪れるフィールドワーカーが島の地理や文化をどう認識するかにも影響を与えたことを明らかにした。第二点は沖縄県の久高島における集落開発を事例に、観光化と宗教的空間の関係に関する検討を行った。戦後の沖縄振興策の間接的影響を受けつつ、島の在来の宗教性が観光資源として位置づけられている一方、実際の宗教組織は過疎化と高齢化により衰退しつつある。ヴァナキュラーな宗教組織が空洞化する中では、地域開発において宗教的空間を意味づけ、管理する主体もまたNPOや行政などの世俗組織に移りつつあることが明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記の通り成果公表やフィールドワークデータの整理においては順調な進捗が認められるものの、新型コロナウィルス拡大により、2020年度に予定していた国内調査は一切遂行できず、研究計画の完了には至らなかったため。
|
Strategy for Future Research Activity |
補助事業期間延長後の最終年度にあたる2021年度は、研究成果を集約し、単著での出版に目処を付けることである。そのために文化人類学や観光学をはじめ、周辺諸分野における本研究題目に関する文献資料を集約し、あらためて研究課題が持つ学術的意義を確認する。とりわけこの間に議論が進んだ、オーバーツーリズムのような、大量の観光客による生活空間の侵害、グローバル資本による空間の領有に関する研究を精査し、その上で、20年度に実施予定であった補足調査を行うこととする。予定しているものは、観光化に伴う生活空間の管理化という主題をより広い文脈に位置づけるため、住居や村落といった、日常的な生活空間に対する外部的な権力の発動の事例収集を行い、本研究との比較事例とすることである。具体的には沖縄県をフィールドとし、①リゾート開発に伴うジェントリフィケーション、②軍事道路や建設に伴う強制移住や道路建設についてである。これらを総合し、本研究課題のまとめを行う。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウィルス拡大により2020年度に予定していた旅費が全て使用できなくなったためやむなく次年度に繰り越し、事態が収束次第、フィールドワークのため国内旅費ならびに観光学関連文献の購入に使用する。
|