2019 Fiscal Year Research-status Report
道徳哲学における共感概念の現象学的立場からの再検討
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17K13315
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Research Institution | Hiroshima Institute of Technology |
Principal Investigator |
八重樫 徹 広島工業大学, 工学部, 准教授 (20748884)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 現象学 / 倫理学 / 共感 / 愛 / 差別 / 想像力 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに得られた研究成果の統合と応用倫理学分野への展開に取り組んだ。 現代倫理学における共感概念の使用を整理するとともに、差別と社会的格差の問題や、テクノロジー(特にAIやロボット)との関わりにおける人間性の問題における共感概念の位置付けについて考察した。特定の個体や集団に自分と同等の行為者性、自律性、尊厳を認める/認めない際のわれわれの心性とその変化の中で、共感や想像力と呼ばれる心の働きが重要な役割を果たしており、そうした働きをより精細に捉えることは現象学的倫理学の大きな課題となりうることが明らかになった。またそうした課題に取り組む際には、われわれが用いる言語に注目することが不可欠である。今後、共感を主題とする現象学的倫理学を展開させていくにあたっては、言語哲学の知見を取り入れることや、心理学・社会学などの経験科学と協働していくことが有益であるとの見通しが得られた。 また、共感と並んで対人体験において重要な道徳的役割を持つと考えられる愛の概念の分析にも取り組んだ。愛に関する初期現象学者の見解(特にエルゼ・フォークトレンダーのそれ)を検討し、現代の愛の哲学における議論と比較することを通じて、今日の現象学的倫理学が愛について何を明らかにすべきなのかを考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究そのものはおおむね順調に進展したが、年度末に予定していた研究成果発表のためのワークショップを新型コロナウイルスの影響で中止したため、成果公開の面では不十分だった。 実施した成果発表としては、(1) プフェンダーの心情論に関する邦語論文、(2) 日本現象学・社会科学会シンポジウムでのフォークトレンダーの愛の理論に関する口頭発表(論文掲載もすでに決定している)、(3) 感情と価値に関するフッサールの理論を検討した英語論考の刊行などがあった。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の理由から期間延長を申請し認められたため、新型コロナウイルス感染状況の収束(あるいは移動およびイベント自粛の緩和)を待って、計画していたワークショップを開催する。また、国内学会誌への論文投稿(共感と差別に関する現象学的倫理学の立場からの考察)をおこなう。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により、計画していたワークショップを中止した。数名の研究者を招聘する予定だったが、招聘を取りやめたため、未使用額が生じた。 次年度に感染状況の収束(あるいは移動・イベント自粛の緩和)を待ってワークショップを開催し、当初招聘する予定だった研究者の全部もしくは一部を招聘する。
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