2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K13317
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大西 琢朗 京都大学, 文学研究科, 教務補佐員 (50773529)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 推論主義 / 関連性論理 / 様相 / 否定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は次の2つのトピックについての研究を行った。(1)可能世界意味論における到達可能性関係の推論主義的解釈。(2)関連性論理の意味論における「2つの計画」についての再検討。 (1)については、結論に(日本語の)「はずだ」を含む推論をカギとなる例として取り上げ検討した。その結果、そうした推論は、直接的に認知できる直示的状況における情報から、認識的に隔離された状況についての情報を導く推論(状況シフト推論)と解釈でき、様相論理の証明論およびモデル論(可能世界意味論)が、そのようなタイプの推論をうまく形式化できることが示された。とくにそこでは、到達可能性関係は、異なる状況間の推論を可能にする「推論リンク」の形式的表現と理解できる。この成果については日本科学哲学会大会などで口頭発表した。12月には国内の推論主義関連の研究者を集めて、京都でワークショップを行った。 (2)については、京都で行われたワークショップで発表したほか、キャンベラおよびメルボルンを訪れ、関連性論理の専門家と議論を行った。関連性論理の意味論には従来、4値意味論にもとづく「アメリカ計画」と可能世界意味論にもとづく「オーストラリア計画」の2つの流派が存在してきたが、両者がどのような関係にあるかについてはそれほど明らかではなかった。本研究では、R. Routleyによる1980年代の試みを取り上げ、近年の「様相演算子としての否定」アプローチを使ってそれを洗練化し、2つの「計画」の関係を明らかにした。それによれば、オーストラリア計画は、アメリカ計画の自然な拡張として位置づけられる。これは、関連性論理の意味論、ひいてはその概念的枠組みに大幅な再編成を迫る成果になると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(1)到達可能性関係の推論主義的解釈(状況シフト推論・推論リンク)についても、(2)関連性論理の意味論(2つの意味論のあいだの関係)についても、今後の研究の展開の核となるようなアイディアを提示することはできた。また、京都での推論主義ワークショップ開催やオーストラリア訪問によって、推論主義および関連性論理の研究者との関係性を構築することができた。また、状況シフト推論の考え方は、言語学における日本語の様相表現についての形式意味論と親近性があることが判明し、言語学者との共同研究も開始できる見通しが立った。 一方、上述のアイディアからのさらなる可能な展開については、十分に研究をすすめることができなかった。(1)については、推論主義に特徴的な「規範的語用論」の観点から推論リンク概念を洗練し、「生物意味論(biosemantics)」や「情報チャンネル」など、類似の諸概念との比較を計画していたが、そこまで到達することができなかった。(2)については、2つの計画の関係が判明した結果、アメリカ計画における否定と虚偽の扱いに焦点が移ることとなったが、それについての検討を行う余裕はなかった。また、上記のいずれについても論文化は遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、前年度の成果を速やかに論文として出版する。(1)については『科学哲学』に投稿予定、(2)については英語で出版される論文集に寄稿予定である。 以降の研究については次のような手順で進める。(A) 「状況シフト推論」概念の精緻化および拡張。R. Brandomの規範的語用論における諸概念を用いて状況シフト推論における規範的態度・規範的地位の構造を記述し、証明論的意味論における「調和」の観点から、状況シフト推論の「正当化」の枠組みを提示する。その上で、現在は様相演算子についてのみ定式化している推論リンクの概念を、他の結合子に対しても適用可能となるように拡張する。(B)「双側面説」の観点からのアメリカ計画の解釈。関連性論理の意味論におけるアメリカ計画は4値意味論、すなわち文の真理と虚偽を(排他的および相補的ではなく)独立して規定する意味論であり、とくに、虚偽はたんに「真ではない」ということではなく、それ自体で与えられる原始概念である。こうした真理と虚偽の概念をうまく推論主義的に解釈するための枠組みとして「双側面説」を利用し、アメリカ計画およびその自然な拡張としてのオーストラリア計画の哲学的な解釈を構築する。(C)以上の成果の統合により、関連性論理の哲学の再構築を行う。とくに、状況シフト推論および推論リンクの概念をオーストラリア計画に適用することで、関連性論理の意味論の推論主義的な再構成が実現される。 (A), (B)については適宜学会誌に投稿するとともに、(C)の段階では、前年度の成果と合わせ、関連性論理の哲学を包括的に展開する一冊の書籍原稿を作成する。
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Causes of Carryover |
当初計画していたワークショップ開催とオーストラリア訪問を行なった時点で、残額が比較的少額となり、早急に購入の必要のある物品等もなかったため。30年度に計画している国際ワークショップ開催のための招へい費に充てる。
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