2017 Fiscal Year Research-status Report
「黒ノート」に依拠したハイデッガーのナチズム問題の再検討―メタポリティークを軸に
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17K13324
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Research Institution | Otani University |
Principal Investigator |
田鍋 良臣 大谷大学, 文学部, 非常勤講師 (90760033)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | メタポリティーク / 再始源化 / ナチズム / 人種主義 / 政治哲学 / 一神論 / 唯一神批判 / 計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ハイデッガーのナチズムとの思想的なかかわりを、「黒ノート」に記された「メタポリティーク」という政治‐哲学的な構想の分析を軸に再検討することである。平成29年度では、1. 1930年代前半の「黒ノート」や同時期の講義、講演にもとづき、メタポリティークの内実を整理することで、総長期(1933-34年)のハイデッガーがナチズムに接近した哲学的な背景を解明することに取り組んだ。さらに、2. 1930年代後半以降ハイデッガーがナチズムから離反していく思想的背景のひとつとして想定される、ユダヤ‐キリスト教批判、とりわけその唯一神(一神論)をめぐる批判的な言説の内実を、「計算」という観点から検討した。
1. では主に以下の4点を明らかにした。(1)メタポリティークは「哲学の再始源化」という哲学的な試みに依拠して構想されている。(2)ハイデッガーはナチズム革命のうちにこの再始源化の歴史的な好機を見る。(3)再始源化を遂行する根拠は「ドイツ民族」と「ギリシア民族」との民族的‐言語的な共属性のうちに求められる。(4)再始源化に依拠したメタポリティークには、ナチズムの人種主義に対する批判が含まれている。
2. では主に以下の3点を明らかにした。(1)因果的説明を本質とする計算的思惟は創造神を「計算(あてに)する」ことに由来するとされる。(2)信仰が向かう神は救済の確実性が「計算(あてに)する」神として捉えられる。(3)ハイデッガーは、唯一神が「唯一」であることの根拠を、この神が他の神々のなかで自身を「計算する(数える)」ことのうちに見出す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の研究では、メタポリティークをナチズムの存在史的な基礎づけとして位置づけるという当初の計画はおおむね達成されたと思われる。さらに従前の科学研究費プロジェクト「ハイデッガー「黒ノート」の研究――「計算的思考」の分析を中心に」(研究活動スタート支援 課題番号15H06724)の研究成果を踏まえ、1930年代後半以降のナチズムからの離反を念頭におきつつ、ユダヤ‐キリスト教の唯一神(一神論)をめぐる批判的な言説の解明に取り組んだことは、平成30年度の研究を遂行する際の指針となった。 ただし総長期のハイデッガーの「民族」概念を、「血と土」や「種族」といった人種論の観点から検討するという試みは、十分に成し遂げられたとは言えない。この問題は、ハイデッガーのナチズムとのかかわりを考えるうえで重要な論点のひとつになりうるが、平成30年度も引き続き取り組み、年度内には一定の研究成果を発表する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、平成29年度の研究成果をもとに、メタポリティークの挫折と自己批判という観点から、ハイデッガーがナチズムから離反していく思想的背景の解明に取り組む。これを遂行するため、以下の2つの方策を立てる。 1. 「誤り」概念の通時的分析によってメタポリティークの挫折を跡づける。 ハイデッガーは1930年代後半以降、総長期のナチズム参画について「誤り」であったと語っている。この「誤り」という語は、メタポリティークの挫折を示唆するが、それだけに留まらない。この語はまた、ナチズムへの接近と離反がなされた時期に繰り返し書き直された講演「真理の本質について」(1930-43年)を通じて彫琢された哲学概念でもある。本研究では、「誤り」の規定が1930年代前半と1940年以降の間で本質的に変容している点に注目し、その差異を整理・分析することで、メタポリティークの挫折がもつ存在史的な意義を明らかにする。 2. ナチズムからの離反をメタポリティークの自己批判という観点から検討する。 1930年代後半以降のナチズム批判は主として生物学的な人種主義に向けられるが、それはすでに総長期でも見られた。だが総長期には、存在の思索の立場から、いわば「形而上学的人種論」とでも言うべき特異な人種思想も、散発的にではあるが、積極的に語られている。ここに、ナチズム革命を歴史的な再始源化に結びつけようとする、ハイデッガーの政治‐哲学的な意図を読み取ることができる。本研究ではまず、メタポリティークに属するこうした人種論を解明するとともに、1930年代後半以降にナチズムの人種主義が「形而上学の完成」の一形態として批判されていく経緯をたどる。そしてこの批判のうちには、総長期に試みられた形而上学的人種論も含まれていることを確認することで、ナチズムからの離反を、メタポリティークに対する自己批判の観点から検討する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額(B-A)は386円であり、おおむね計画どおりに使用できたと考えている。
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Research Products
(4 results)