2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K13325
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
服部 敬弘 同志社大学, 文学部, 助教 (10770753)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ミシェル・アンリ / 現象学 / 言語 |
Outline of Annual Research Achievements |
アンリにおける生の現象学の言語論の諸前提を明らかにするため、『我は真理なり』(1996)における「生の自己触発」概念を分析した。この書においてアンリは、生を、単に静態的な同一性として捉えるのではなく、むしろ固有の時間構造を備えた動態的な「出来事」として理解する。さらに、生に「自己産出」の機能を与え、「生けるもの」の生成を理論化するに至る。この生の自己触発概念を起点として、アンリは、言語論に着手する。そこで、本研究は、言語論の前提となる生概念についてより詳細な理解を得るため、生の自己触発の原型となった諸概念の研究に着手した。それが『マルクス』(1976)の「生ける労働の時間」論、及び「諸観念の生成」論である。第一に、アンリは、いかに生が、表象や反省のもつ動態性とは異なる動態性を備えているかを明らかにする。前者は「客観的時間」、後者が「主観的時間」と呼ばれる。客観的時間が、質的に異なる様々な労働を、定量化し、同一の時間地平へと回収する時間であるのに対して、主観的時間は、質的に異なる労働を、「生の潜勢態の現勢化」の過程へと統一する。客観的時間の統一が抽象的で観念的な同一性であるのに対し、主観的時間の統一は、生の現実化の運動そのものとして、具体的な実質を備えている。この生の現実化の運動こそ、生ける労働の時間である。第二に、この時間概念から、アンリは、「生の潜勢態の現勢化」こそ、生の動態性であること、さらにこの動態的過程のただ中で、様々な表象や観念、概念もまた、生成することを明らかにする。したがって、『マルクス』は、単に生を、自己触発の直接的同一性に限定せず、表象や概念といった媒介的な事態をも支える、より豊かな出来事として、探究している。以上の分析から、本研究は、『マルクス』が、『我は真理なり』の生概念、及びそれに支えられた言語論にとって決定的に重要な役割を果たすことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、平成29年度は、『我は真理なり』で前提される記号理解の研究を予定していた。しかし、『我は真理なり』の詳細な読解を進めていくなかで、予定を一部修正し、『我は真理なり』以前の著作に遡行する必要性を感じた。理由は次の通りである。第一に、アンリが『我は真理なり』で用いている諸概念が、聖書の記述に依拠しながら規定され、十分な哲学的規定を与えられていないことが挙げられる。いかに自身の生概念が、聖書の読解において有効に機能するかを暗に示そうとする論述は、アンリにとってすでに生概念の核となる部分がすでに完成していることを示唆するものである。第二に、生の動態的構造についてはすでに規定済みであるかのような扱いを受けている。実際、『顕現の本質』を参照させる箇所もあり、『我は真理なり』の段階では、より詳細な規定が与えられていない可能性が感じられた。そのため、生の動態的構造や生けるものの生成といった、記号的構造のヒントとなる諸概念を、当初『我は真理なり』に依拠して分析しようと予定していた本研究は、『我は真理なり』以前の『マルクス』まで遡って、生概念についてのより詳細な哲学的規定を探し求める作業に着手した。その結果、『我は真理なり』の論述からは得られない、具体的な分析を見出し、当初の予定と変わらぬ、言語論に関する、有益な結果を得ることができた。なお、ルーヴァン大学への滞在が予定されていたが、Edition Hermann、及びFondation Meyerの招聘により、国際コロック登壇、及び1週間パリ滞在の機会を得たため、予定を変更した。この期間中、『マルクス』の研究成果を発表しただけでなく、Emmanuel Cattin、Alexender Schnellら、コロック参加の研究者らとの意見交換を行い、研究進展の一助とした。
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Strategy for Future Research Activity |
身体の動態性を支える「肉」の概念に焦点を絞り、「受肉」概念、及び「肉の自己触発」概念が、いかに言語において「意味」を担う概念として機能しているかを明らかにする。その際、『精神分析の系譜』(Genealogie de la psychanalyse, 1985)における「力」(force)や「アフェクト」の概念との連関を踏まえたうえで、肉の自己関係性が表現する言語論的構造の解明に注力する。また、アンリ死後公表された、『受肉』の準備草稿も分析対象とする(Notes preparatoires a Incarnation (2015))。この一連の考察は、山形賴洋によるアンリ身体論の分析(2004)の諸成果をたえず参照する。特に、ラントグレーベらのキネステーゼ論に関する山形の分析(『声と運動と他者』2004年)に対して、本研究は、言語論的観点から一層踏み込んだ分析を行う予定である。そのほか、A. Devarieux, "Force et affectivite chez Michel Henry"(2012)/J.-F. Lavigne, "Incarnation et historicite"(2013)を参照する予定である。なお、受肉をモデルとした伝統的言語論については、すでにアウグスティヌス言語論の詳細な研究(V. Giraud :2013)がある。こうした肉と意味との関連の考察は、申請者と同僚のV. Giraud 助教(同志社大学)との共同討議によって深められるはずである。その結果を研究に積極的に反映させ、一連の成果は、論文として『文化学年報』(同志社大学)において発表される予定である。なお、現象学的言語論の最新の知見を得るために、パリにも赴き、D. Franck パリ西大学名誉教授との討議を行う予定である。
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Causes of Carryover |
物品費の残高が生じたため。
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Research Products
(2 results)