2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K13325
|
Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
服部 敬弘 同志社大学, 文学部, 准教授 (10770753)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | ミシェル・アンリ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、第一に、J.-L. Chretienの論考を手がかりに、アンリ言語論において「世界の言葉」が果たす積極的役割について論究した。Chretienが注目するのは、アンリ言語論の背景にあるアウグスティヌス言語論の痕跡である。アウグスティヌスは、『基本書と呼ばれるマニの書簡への駁論』で「言葉の記号」と「内なる教師」とを対比し、「しもべの形」をとった「内なる教師」が、言葉という「外的なもの」から不滅の真理の在り処である「内なるもの」へと導くことを指摘している。この点に注目するChretienの読解を引き受け、「世界の言葉」の「回心」としての役割の意味をさらに探るべく、本研究は、アウグスティヌス『教師』にまで遡り、アンリとの接点を探った。『教師』では言葉が、実在(res)を指示する記号として捉えられるとともに、記号(感性的対象)に対する実在(知性的対象)の優位が説かれる。「世界の言葉」と「生の言葉」との対比を想起すれば、ここに両者の関連性を見ることができる。また同書で「祈り」という言葉に単なる記号とは別の特権的役割を認めている点も注目される。さらに、同書では、言葉に「回心」へ促す契機を認め、「内」へと向かう「警告」としての積極的役割を与えている。この点に「世界の言葉」が果たす積極的役割のアウグスティヌス的表現を見出しうることを明らかにした。第二に、『キリストの言葉』準備草稿の分析に着手した。そこでアンリの聖書参照箇所を照合し、ヨハネ福音書を重視しつつ、パウロ書簡についてはほとんど言及が見られない点が、どのように彼の聖書解釈と関連しているかを明らかにした。特に、パウロにおいては決定的役割を果たす「霊」と「肉」(サルクス)の対立がヨハネにおいては影を潜めている点について、この差異がアンリの聖書解釈にどのような影響を与えているかを考察した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、文献調査のため、欧州渡航を計画していたが、新型コロナウイルスの影響により、中止せざるをえなかった。そのため、当初計画を変更し、次年度に計画を延長して、改めて2020年度に欧州での文献調査を実施する予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、アンリの言語論を、彼のハイデガー的現象概念の解釈から再考することを試みる。具体的には、"Phenomenologie materielle et langage (ou Pathos et langage)"及び『受肉』第一部を中心に取り上げ、言語と現出との連関から言語論が構築される過程を追跡し、アンリの現象理解を包括した言語論の全体像を明らかにする。アンリは、ハイデガー『存在と時間』第7節を分析の起点として、自身の現出の二元論を構築するが、ハイデガーのロゴス解釈に対しては一面的な解釈を行っていると考えられる。アンリは、言葉の命題的構造が必然的に内包する「偽」の契機を予め排除し、言葉をもっぱら純粋な自己現出として捉えるからである。このアンリによる言語‐現象理解が、「生の言葉」と「世界の言葉」の二元論にどのような影響を与えたのか、また、それがどのような形で言語論のアポリアを生み出しているのかを明らかにし、現象論と密接に関連した彼の言語論の統合的解釈を試みる予定である。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、欧州渡航を中止したためである。使用計画としては、欧州渡航及び現地での資料調査を予定している。
|