2018 Fiscal Year Research-status Report
ハシディズム伝承の再構成と近代ユダヤ・ルネサンス運動に関する発展的・思想史的研究
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17K13338
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
平岡 光太郎 同志社大学, 研究開発推進機構, 助教 (00780404)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | マルティン・ブーバー / シャイ・アグノン / ハシディズム / 近代ユダヤ・ナショナリズム / シオニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年4月から7月にかけて、8月にヘブライ大学で開催されるシンポジムのために、発表原稿の作成に取り組んだ。またシンポジウムの企画・調整に取り組んだ。 8月8日~17日におけるエルサレムでの滞在期間に、イスラエルの国立図書館へ行き、図書館内でのみ閲覧可能であるいくつかのハスィディズム原典を確認したところ、マルティン・ブーバーのハシディズム理解を肯定する資料が見つかった。シンポジウムでの発表原稿にこの発見に関する内容を追記した。8月19日に、同志社大学神学部と一神教学際研究センターならびにヘブライ大学人文学部主催によるThe Third Symposium on Jewish Studiesが開催され、その中で、Martin Buber’s Reception of Hassidismの題名で発表した。8月25日よりドイツへ移動し、ベルリンで研究滞在をした。ベルリンに研究滞在中のバル・イラン大学アビドブ・リプスケル教授と会い、ブーバーが読んだであろう、ハスィディズム原典の資料について意見交換した。またポツダム大学のブーバー研究者である、アドゥミエル・コスマン教授ともこの資料について意見交換した。 堀川敏寛氏の『聖書翻訳者ブーバー』の書評をCISMORに依頼され、平成30年10月に提出した。京都ユダヤ思想学会の『京都ユダヤ思想』第7号(2)、ブーバー特集号のための原稿を推敲した。特集号には、論文「マルティン・ブーバーのシオニズム思想の特徴―「神権政治」と「聖性」理解を中心に―」と、ダン・ラオール教授による論文の翻訳である「アグノンとブーバー―ある友情の物語、『ハスィディズム集成』の発端と結末」が掲載予定である(2019年6月発行予定)。 2020年3月末に、本研究成果の一部を公開講演として発表するため、アダ・コヘン教授とこの講演会に関する打ち合わせをした
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度のエルサレムにおける研究滞在では、マルティン・ブーバーがユダヤ教へ回帰するキッカケとなった「ラビ・イスラエル・バアル・シェム・トヴの遺言」原本の様々な版を確認する作業を通し、ブーバーの理解を肯定する版を発見することができた。このため、彼がテクストを誤読ないし改変したという前年度までの結論を修正した。ブーバーが読んだ原本のテクストに異読があったことはこれまでのブーバー研究において指摘されておらず、本課題において、版の発見は非常に有益であった。ブーバーが読んだと思われる異読の版には、「聖化される」という記述があり、これは彼のユダヤ教理解、また文化的・精神的シオニズム理解において晩年に至るまで中心軸となる「聖性」理解に関わる。本年度の研究を通して、若きブーバーが「聖性」概念をハシディズム研究から受容したこと、またその受容の在り様を明らかにすることができた。また物語伝承のみを重要視すると考えられていたブーバーが、上記の聖性に関わる教説伝承によってハシディズムの核心に触れたことを発見できたことは、ブーバーの伝承理解の把握に資するものであった。エルサレム研究滞在の折に調査した資料から、ゲルショム・ショーレムがブーバーの「聖性」理解を厳しく批判していたことを確認し、その批判がブーバーのユダヤ教理解、ハシディズム理解、シオニズム理解の根幹に関わっていたことを再確認した。ショーレムによる批判を確認することを通し、ブーバーの「聖性」思想の問題点を理解し、彼をより相対的に位置づけることができた。研究当初において、ブーバーとアグノンによるバアル・シェム・トヴ受容の在り様を考察する予定であったが、2018年度の研究により、「聖性」という課題からブーバー、アグノン、ショーレムのハシディズム理解を検討することにした。この変更は、近代ユダヤ・ナショナリズムを扱うという本課題の目的に即している。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度までの研究において、ブーバーのハシディズム理解に特に焦点を当ててきた。課題最終年度である2019年は、4月から7月までは、前年に収集したアグノンの用いたハシディズム原典、またブーバーとアグノンと同時代に、ハシディズム研究に関わった人々の理解を調査する。アグノンに関しては、彼の「聖性」理解を明らかにする資料を発見できておらず、この資料の特定に努める。アグノンがそもそも「聖性」を重要視していない可能性もあるため、この可能性も含めて、検討する。本課題においては、近代ユダヤ・ナショナリズムという文脈を一つの参照軸としているため、この軸を中心にブーバー、アグノン、ショーレムなどを位置づける。 8月に、エルサレムに滞在し、2018年度までに集めることができなかった資料を収集する。またゼエブ・ハーヴィー教授、ポール・メンデス=フロー教授、ダン・ラオール教授、ヨナタン・メイール教授、ニハム・ロス教授などと、ブーバーやアグノンのハシディズム理解に関する意見交換をする。特にこれまでの2年間の調査結果についてコメントをもらい、それらを研究を総括する際の参照とする。 10月の日本ユダヤ学会の年次大会において、ブーバー、アグノン、ショーレムにおける聖性の問題に関する発表をする。その後、日本ユダヤ学会ないし京都ユダヤ学会に投稿する論文を執筆する。3月末に同志社大学にて、アダ・コヘン教授と「聖性」の問題について公開のシンポジウムないし講演会を開催する予定のため、11月以降はこの準備をする。
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Causes of Carryover |
2018年夏のエルサレム滞在の前半に、ゼエブ・ハーヴィー教授の家に宿泊させてもらい、おおよそ7日分の宿泊費が残ることなった。残った7日分の宿泊費に関しては、2019年度の夏のエルサレムにおける研究滞在の旅費とする。
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