2017 Fiscal Year Research-status Report
Genealogical and religio-philosophical research on the faith of Western European mysticism in early modern times
Project/Area Number |
17K13339
|
Research Institution | Tenri University |
Principal Investigator |
渡辺 優 天理大学, 人間学部, 講師 (40736857)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 神秘主義 / 中近世西欧神秘思想 / ライン・フランドル / 17世紀フランス / 魂の根底 / フランソワ・ド・サル / ジャン=ジョゼフ・スュラン / ミシェル・ド・セルトー |
Outline of Annual Research Achievements |
研究開始初年度となる平成29年度の研究実施計画においては、中世から近代にかけて神秘主義言説に生じた質的変容の概要を明らかにすることが主な研究目的であった。M.ド・セルトー、M.ベルガモ、D.サランらの先行研究を再検討し、「存在論から心理学へ」という大きな見通しのもと、中世ライン・フランドルから近世フランスへと至る霊性史を系譜学的に記述することを目指した。 当初検討すべきと考えていた先行研究については、十分に吟味できたと考える。ただし、17世紀フランスにおけるエックハルトないしタウラーの影響に関する最近の研究成果が当初の視野には入っておらず、今後の課題として残った。先行研究を踏まえ、西欧霊性史において中世と近世のはざまに位置づくフランソワ・ド・サルの重要性を確認するとともに、「魂の根底」概念の変遷を焦点に研究会での発表を行った。また、宗教学会の発表において、中世ライン・フランドルの神秘思想と近世フランス神秘主義の連続性および断絶という大テーマをめぐって問題提起を行った。中世と近世、北方とフランスの霊性を橋渡しするような研究は世界的にみても蓄積が少ない。この点で本研究は、いまだ萌芽的な段階にとどまるが、西欧神秘思想研究の新たな端緒となりうるものである。 文献については、フランスでの現地調査も行い、近年出版が相次いでいる各種校訂版を中心に収集・購入し、本研究全般の基本作業を進めることができた。 本研究の最終的な目標は、近世神秘主義の信仰論の現代的可能性を明らかにすることである。この点、スュランの信仰論を中心的題材として今後の研究の糸口となるべき発表二回を行い、論文一本を発表した。また、本研究を通じて最も重要な参照点となるM.ド・セルトーの宗教言語論についても査読論文一本を投稿した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
中世から近代にかけて神秘主義言説に生じた質的変容を明らかにすべく、二度の研究発表を行ったが、論文として研究成果をまとめるまでには至らなかった。扱うべき思想家・神秘家たちの数およびテクストの分量が当初の予想を上回ってしまったことが主原因である。 とくに、ライン・フランドルの神秘思想については先行研究の蓄積が予想以上に分厚く、当初は視野に入っていなかった近年の研究成果もあった。17世紀フランス神秘主義を研究してきた申請者のこれまでの専門領域とは異なることもあって、準備段階として基礎的な研究を必要とした。また、当初の研究実施計画では、「魂の根底」の変容という問題に加え、「受動性」概念の意味内容の変遷にも注目する予定であったが、同様の理由から後者については手つかずに終わった。 他方、スュランの信仰論をめぐる二度の発表と論文一本、またセルトーの宗教言語論をめぐる論文一本をまとめることで、近世神秘主義の信仰論を現代宗教思想に引きつけて解釈するという本研究課題の将来的な方向性につながる成果を出すことはできた。 総合的にみて当初の予定より若干遅れていると判断するが、今後の見通しは暗くない。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の研究実施計画に従えば、今後は17世紀フランスにおける十字架のヨハネの信仰論解釈と受容の多様性および相克に焦点を置いて研究を進めることになる。だがその前に、中世から近世にかけての神秘主義言説における連続性と断絶について、前年度に得られた成果をもとに引き続き研究を推進し、得られた成果を早急に論文としてまとめたい。「魂の根底」の変容を焦点に、「存在論から心理学へ」という大きな見通しにより系譜学的視座を提示する。その際、当初の計画にはなかったが、19世紀末から20世紀半ばにかけて西欧に流行した心理学的神秘主義研究にも目配りすることで、現代にまで通じる、より射程の大きな系譜学的視座を提示できるのではないかと考えている。それにより、今後の研究の見通しもより明確になると期待できる。 近世フランスにおける十字架のヨハネの信仰論解釈の諸相については、とくに重要な一次文献を絞り込み、地道な解釈を積み重ねたい。また、近世神秘主義と現代宗教思想の接点を問うという本研究全般を貫く試みに照らして、19世紀末から20世紀の半ばの神秘主義研究における十字架のヨハネ解釈のあり方についても探ってみたい。 昨年度に続き、今年度もフランスに渡航し、現地研究者との議論を通じて本研究に対する助言を得る予定である。
|
Causes of Carryover |
購入した書籍一冊について、古書店での販売価格が当初の購入予定価格よりも下回ったため。次年度の研究遂行に必要な書籍購入費用として使用する予定である。
|
Remarks |
(学会発表でない研究発表) 渡辺優「「信」の言葉に耳を澄ます――神秘主義研究の新地平」2017年度天理大学宗教学科秋季特別講義(第34回渋沢・クローデル賞、2017年度日本宗教学会賞 受賞記念講演)、2017年。 渡辺優「信仰の闇の彼方――17世紀フランスのイエズス会士ジャン=ジョゼフ・スュランの神秘主義」天理日仏文化協会特別講演、2018年。
|