2019 Fiscal Year Research-status Report
Genealogical and religio-philosophical research on the faith of Western European mysticism in early modern times
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17K13339
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡辺 優 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (40736857)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | フランス神秘主義 / スペイン神秘主義 / 十字架のヨハネ / ジャン=ジョゼフ・スュラン / ギュイヨン夫人 / ミシェル・ド・セルトー / 魂の根底 / 暗夜の信仰 |
Outline of Annual Research Achievements |
3年目にあたる本年は、以下4点それぞれにおいて一定の研究成果を挙げることができた。 ①初年度より進めていた西洋中世後期北方神秘思想と近世フランス神秘主義の思想史的断面についての研究を総括する論文にまとめ、「存在論から心理学へ」という西洋霊性史上の大きな変化を跡付けることができた。同時に、ジャン=ジョゼフ・スュランの神秘主義についてその近世的性格を浮き彫りにした。 ②16世紀スペインの神秘家十字架のヨハネの「暗夜の信仰」論が17世紀フランスにおいてどのように解釈されたか(その多義性を失っていったか)を考察し、口頭発表1回を行い、査読論文として学会誌に投稿した。これによって、本研究課題全体の軸となる17世紀フランス神秘主義の信仰論、その問題系の枢要点を押さえるとともに、18世紀以降の神秘主義理解の変遷を見通すための基本的視座を提示することができた。 ③近代そして現代への展開についてより具体的な見通しを得るため、当初の計画通り17世紀末フランスに起こったキエティスム(静寂主義)論争の研究に着手した。とくに、論争の震源地となったギュイヨン夫人の信仰論を検討し、学会発表1回を行った。 ④神秘主義的信仰論の現代的展開、さらには広く従来の人文学全般における「神秘主義」概念を問いなおし、神秘主義をラディカルな「宗教」思想として現代に捉えなおすという本研究の終着点を見越した研究も進めることができた。具体的には、神秘主義に現代的境地を拓いたミシェル・ド・セルトーの現代宗教論、キリスト教信仰論について国際シンポジウムにおける口頭発表1回を行い、論文にまとめた。信仰論を焦点に神秘主義を西洋思想史上において別様の知として位置づけなおす試みとして、口頭発表1回を行い、論文1本を発表した。また、同様の問題意識のもとスペイン神秘主義の概要をまとめた一般向け論考を刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の中心的問題系である近世西欧神秘主義の信仰論について、十字架のヨハネの「暗夜の信仰」論の本質的特徴(暗夜の多義性)を整理し、17世紀フランスにおける解釈の諸相を概観することができたことは最大の成果である。これによって、近世西欧の神秘主義文献全般を読み解くための有力な補助線を提示できたばかりでなく、近世以降の西洋における神秘主義のゆくえを探るためのひとつの見通しを与えることができた。 他方、否定的な要素もある。近世神秘主義の信仰論について研究すべき余地はなお大きい。キエティスム論争については先行研究も数多く、本研究もギュイヨン夫人のテクスト解釈に着手したという段階である。また、コロナウイルス感染拡大の影響により、2019年度末に予定していたフランス・スペイン出張の中止を余儀なくされ、予定していた現地での資料収集や研究者との議論ができなくなった。 しかし、フランスの研究者とは、その後メールでのやりとりを重ねるなか研究上の助言を得るなど、対処することができている。本研究課題の4年目に計画している現代における神秘主義的信仰論の展開についても、ミシェル・ド・セルトーのキリスト教論について発表を行い、論文にまとめることができた。 総合的に勘案するに、当初の計画以上に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
神秘主義的信仰論の現代的展開については、ミシェル・ド・セルトーのキリスト教論を中心に研究成果をまとめ、2020年7月の研究会にて発表の予定である。キエティスム論争については、9月に開催される日本宗教学会で発表する。それぞれ発表によって得られた知見を踏まえ、論文としてまとめたい。前年度に中止した海外出張(資料収集、研究者との交流、研究発表)については改めて早期に計画したいが、現下の社会的混乱が収束しない限り見通しが立たないこともあり、海外の研究者とのメール等でのやりとりをより積極的に行う。最終年度であり、本研究課題の遂行全体を通じて得られた成果についてはフランス語による論文の刊行を目指す。
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Causes of Carryover |
当該年度(2019年度)末に海外出張を予定していたが、新型コロナウイルス感染拡大を受けて中止を余儀なくされたため。次年度に改めて計画する海外出張の旅費として使用する予定である。
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