2017 Fiscal Year Research-status Report
日本帝国主義の満洲経営と植民地統治との連動/背反に関する思想的研究
Project/Area Number |
17K13341
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
許 時嘉 山形大学, 人文社会科学部, 准教授 (10709158)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 満洲国 / 植民地台湾 / 東亜連盟 / アジア主義 / 米国排日運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は黄禍論と連動して生まれた東アジア連合体の理想像をめぐる日本本土と植民地台湾の世論の温度差を中心に資料調査を行なった。20世紀初の黄禍論による米国の一連の排日移民法が公開されて以来、日本国内では反発が起こり、東アジア連合体の理想像が膨らむに至った。日本帝国主義は植民地統治において植民地人民を日本人民と区別し、差別化すると同時に、大陸進出の「満洲国」の建国には「五族協和の王道楽土」という看板を掲げ、西洋帝国主義の人種イデオロギーへの反発を表明していた。この日本の膨脹行動の二様の論理が西洋世界の人種的差別意識の敷衍/反撥を同時に内包することは注目に値する。 本年度の研究成果は以下の通りである。 (1)資料調査:日本の膨張行動の二様の論理が西洋世界の人種的差別意識の敷衍/反撥を同時に内包する実態に注目し、1924年排日移民法案以降の日本国内の世論変化と台湾議会設置請願運動に及んだ波紋について考察した。関連の研究成果は次年度に学会発表を行う予定である。 (2)学会発表および書評論文:戦前から戦後に至る植民地統治理論の言説空間を検証した。学会発表論文(研究成果一覧参照)では、植民地台湾の断髪運動賛成論における明治維新期の断髪記憶のよみがえりを考察し、断髪肯定論の底流に伏在している過去の経験の置換えが、帝国-植民地統治構造における絶対的な支配位置を強化したことを確認した。書評(研究成果一覧参照)ではレオ・チン『ビカンミング・ジャパニーズ』(勁草書房、2017年)を対象として戦前の日本統治の言説空間および台湾人のアイデンティティ認識の葛藤を再考し、40年代以降に満洲移住を積極的に選んだ台湾人の思想的背景に関する知見を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、排日移民法の人種論言説とその波紋を中心にして、日本と台湾の新聞記事、思想言説を資料収集し、①人種差別政策の反発と東アジア連合体(大東亜共栄圏)構想との連動性、②日本国内の世論と植民地台湾のそれとの差異について分析した。排日移民法に関する戦前日本国内の世論分析については先行研究にある程度蓄積があるが、日米関係の毀損など外交史研究を偏重する嫌いがある。よって、本年度はアメリカの排日政策発布直後の①1906年日本人学童隔離、②1908年日米紳士協約による移民制限、③1913年・1920年日本人移民の土地所有禁止、④1924年日本人移民禁止、という四つの時点に注目し、その前後の記事を中心に収集し、植民地統治との接点を中心に言論の動向を確認した。その中、1924年排日移民法に対する日本国内の世論記事と同時期台湾議会設置請願運動の報道との照合を行い、請願運動を支持する台湾人資本の『台湾民報』はこれらの排日移民法の世論が台湾総督府政策をけん制する言説に転用されたことが明らかになった。東アジア連合体の構想が固まりつつある中、日本本土の言論と植民地台湾のそれとの温度差は、日本帝国主義の内部構造のねじれを物語っている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は日本の大陸進出とともに移動する被植民者の私人日記、書簡、オーラルヒストリーを分析し、日本帝国主義体制下における被植民者の移動とそのメンタリティーを明らかにする。彼らの「越境」と台湾総督府の近代化志向の相克を分析することで、満洲国が呈した活気のある文化活動と様々な試行錯誤に映し出されたイデオロギー的諸相を検証し、大陸経営と植民地統治の二重性とその意義を解明する。この二重性を明らかにすることは、日露戦争以降日本の近代国家体制が本格的に確立された後の大陸への進出とその侵略の本格化、そして大東亜共栄圏の幻想からその全面的崩壊に至る帝国主義的病理の深化を理解するための端緒となるように思われる。 具体的に以下の2点を中心に行う。 (1)台湾既刊のオーラルヒストリー集(中央研究院口述歴史シリーズ)、既刊の満洲滞在日記(徐水徳日記等)、台湾総督府公文類纂の満洲関連文書および台湾人国籍関連法令を中心に調べる。台湾人の滞在実態を把握すると同時に、日本政府および台湾総督府の台湾人国籍管理の意図と照合する。 (2)戦前満洲で発行された日本語新聞の①『満洲日報』1906-1907、1908年、②『満洲日日新聞』1907-1927年、③『大連新聞』1920-1935年、④『満洲新報』1908-1917年、および⑤早稲田大学所蔵の満鉄機関紙『協和』1927-1941年を中心に、現地の民族協和の言説と満洲滞在の台湾人関連記事を収集する。
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