2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K13342
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
佐藤 愛 立命館大学, 言語教育センター, 嘱託講師 (00779556)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ウジェーヌ・ミンコフスキー / 同調性 / 調性 / ミシェル・アンリ / Stimmung / ハイデガー |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度はまず、平成29度にチューリッヒとパリで行なった調査結果をもとに、ミシェル・アンリ哲学会で口頭発表を行なった。この発表では、ミンコフスキーの同調性概念の基礎となる調性概念について、ハイデガーとアンリの調性概念との比較から検討した。また精神病理学と哲学に関する研究会アポリアにおいて、ミンコフスキーの調性概念に関する口頭発表を、ビンスワンガーとの比較を中心に行なった。 これら二つの発表では、ドイツ語圏の哲学者ハイデガーと、フランス語圏の哲学者アンリ及び第一次世界大戦後にフランスに移ったミンコフスキーという、「ドイツ対フランス」の構図から調性概念の形成史をたどろうとした。しかしながら、発表後の活発な意見交換と追加で行なった文献分析により、以下の点を大きく変更することにした。 1.ハイデガーの調性概念は古代ギリシア哲学を着想の源とするものであり、これを引き継いだアンリ及びミンコフスキーの思想は、ハイデガー哲学を乗り越えようとしたというよりも、彼の哲学をより深めたという点。したがって調性概念は、ハイデガーとアンリ=ミンコフスキー間での対立や断絶を示すものではなく、西洋哲学の一つの展開の仕方を示すものである。 2.ハイデガー哲学を基礎とする精神病理学者として、当初はビンスワンガーを念頭においていたが、よりハイデガー哲学に近い立場としてボスに焦点を当て、彼の精神医学に関する記述を追加した。 こうした大きな変更点を軸として、ミンコフスキーの調性概念に関する論文を執筆し、12月末にこれをミシェル・アンリ哲学会に提出した。年度末には査読結果をもとに修正を加えるとともに、さらなる追加の文献分析を行い、最終原稿を完成させて提出した。 またこの他に、同調性と調性を概念史的に整理する過程で、対概念となる分裂性や自閉の概念史を整理することができた。この結果を共著のコラムとして発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では、前年度である平成29年度に精神医学の分野から調査を行い、平成30年度に哲学の分野から調査する予定であった。前者については、平成29年度の調査後に、予定通り精神医学史学会で研究発表を行っている。また後者についても、予定通り哲学の学会であるミシェル・アンリ哲学会での発表を行い、発表後の意見交換を踏まえて同学会に論文を投稿し、条件付き承認となった。平成30年度末には原稿に追加の文献分析を加え、最終原稿を提出済みである。 以上の理由から、進捗はおおむね順調であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画としては、すでに平成29年度に精神医学史学会で発表した内容をもとに、同学会に論文を投稿することを予定している。昨年度末にミシェル・アンリ哲学会で発表及び論文執筆を行なって得られた新たな知見をもとに、すでに発表済みの原稿に十分な肉付けを行い、精神医学史の観点から本研究について整理することを予定している。
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Causes of Carryover |
当初は二年間で研究を計画していたが、予想よりも得られた調査結果や資料が豊富だったため、三年計画とし、新たに成果としてまとめる論文を加えることとしたため。
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