2019 Fiscal Year Research-status Report
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17K13343
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
森川 裕貫 関西学院大学, 文学部, 准教授 (50727120)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 五権憲法 / 孫文 / 蒋介石 / 『新生命』 / 中国近現代史 / 周仏海 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は2018年度に引き続き、『新生命』に連なる人士の五権憲法解釈に着目した分析を行った。特に着目したのが、『新生命』創刊の直前にその中心人物の一人となる周仏海によって発表された『三民主義之理論的体系』(1927年)である。同書は孫文の三民主義の詳細な解説であり、五権憲法と密接に関連する民権主義についても多くの説明を割いている。その特色は、ルソー『社会契約論』の強い影響の下、孫文の直接民権の理念をより精緻化したこと、マルクス主義を参照して資産階級と無産階級の区分を排撃しつつ、反革命分子は民権を享受し得ないとする「革命民権」を明示したことにある。こうした周仏海の理解は、『新生命』はもちろん、中国共産党の五権憲法・民権主義解釈にも相当の影響を及ぼしたと考えられる。たとえば、中国共産党を代表する理論家の一人である何幹之は、その著作『三民主義研究』(1940年)において、孫文の言及する人民を「帝国主義と軍閥に反対する個人あるいは階級」と定義し直しつつ、孫文の五権憲法構想を人民の力量をもれなく団結させる優れたものとして高く評価した。ここに周仏海との議論の共通性を見て取ることは容易である。マルクス主義の立場からの五権憲法解釈は五権憲法の解釈全体において当然に重要な位置を占めるが、その詳細を探究する上で上記の系譜は大きな手がかりを提供すると想定している。 これとは別に、五権憲法解釈にやはり大きな役割を果たした蒋介石に関する考察も引き続き行い、成果として「蒋介石『中国之命運』の国際的反響」(『東洋史研究』第78巻第3号)を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度に行った『新生命』分析の成果をふまえつつ、周仏海の著述の分析を行い五権憲法解釈の注目すべき系譜を見いだしつつあることがその直接的な理由である。また、広島中国近代史研究会(2019年8月)において、金子肇氏の著作『近代中国の国会と憲政--議会専制の系譜』(有志舎、2019年)の書評報告を担当したことにより、多くの新たな知見を得られたことも研究の進展に役だった。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度までの調査により、1949年までに発表されたものを中心に五権憲法に関する様々な書籍や評論を相当数入手することができた。次年度も引き続きそれらの考察を実施し、これまでに得た知見をふまえて、五権憲法に関する複数の見解の整理を行う。
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