2019 Fiscal Year Research-status Report
「食通」の比較思想史: 18・19世紀日本およびフランスにおける感性の形成
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17K13344
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Research Institution | The University of Shiga Prefecture |
Principal Investigator |
橋本 周子 滋賀県立大学, 人間文化学部, 准教授 (30725073)
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Project Period (FY) |
2019-02-01 – 2022-03-31
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Keywords | 美食 / フランス料理 / 日本料理 / 食通 / 魚 |
Outline of Annual Research Achievements |
1:近代以降の主要料理書における「魚」の扱いに関する研究 日本・フランスにおける「食通」の感性について、より実感をともなった学術的比較を実現するべく、具体的な食材に焦点を絞り検討することを意識した。具体的には、それぞれの文化における料理体系が輪郭をなす近代以降の料理書のうち、数点ずつ代表的なものをとりあげ、それぞれにおける食材としての「魚」の扱いについて調査を行った。これにより、まずは日本料理においていかに「魚」が主要な役割をなすかが理解された。また基本的に人為の及ばない海産物によって料理の内容が左右されるために、「魚」こそが、日本料理の最たる特徴ともされる季節感の決定要素となってきたことが、改めて確認された。これに比してフランスでは「魚」は主要な食材の一ではあるが、やはり料理の中心をなすことは(宗教的節制の期間を除いて)ほとんどない。「魚」の重要性の違いは調理法、とりわけ火を入れるまでの下ごしらえ(特に捌き方)の多様性の違いにもあわられている。
2:古代ローマおよびフランス近代美食文化の比較(「魚」をテーマに) 近代以降のフランス「美食」概念の構成要素の一つとして、しばしば古代ローマの「美食」文化が指摘されるが、その具体的な連関や影響についてはこれまでほとんど検討されてこなかった。本研究では、1で示したとおり「魚」という具体的主題を扱いつつ、この難題に対し一筋の光を当てることを目指し、調査を進めている。古代ローマ文化と近代フランスの連続性の有無については、とりわけそれが「魚」という地理的条件に制限される主題をめぐる検討だけに、相違ばかりが想定される。しかしそこに何らかの連続性が見出されれば、風土のみによって決定されない、そして日本文化とは異なる、食に関するなんらかの理想のありようを明らかにすることができるかもしれない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請段階では概念的研究に終始する可能性が濃厚であったが、研究を進めるうち、具体的事象にたちもどり、そこから地道な検討を積み重ねていくことがより生産的であると判断した。スピードとしては「やや遅れている」ことは否めないが、紛れもなく研究は深化しているといえる。今後、よりいっそう研鑽に励みたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は比較研究であるが、どちらか片方の文化に肩入れすることなく、両者を比較してはじめてそれぞれの独自性が浮かび上がることを目標としている。したがって、引き続き、「魚」を主題に料理書の検討をすすめるが、昨年度は日本について多くの時間を割いたので、今年度は比較対象であるフランスについてより詳しくみていきたい。
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Causes of Carryover |
購入を予定していた資料(学術雑誌のバックナンバー)をフランスの出版社から直接購入すべく見積もり等を入手しようとしていたが、その最中コロナウイルスによる混乱があり、購入の計画をいまは中止せざるを得なくなった。今年度、この社会的混乱の状況をみつつ、予定していた資料を入手したい。
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