2018 Fiscal Year Research-status Report
Analyzing the Process of Creating a "Nationalistic" canonic Repertory: A Case Study of Piano Exams at the Conservatoire national de musique de Paris
Project/Area Number |
17K13347
|
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
上田 泰 (上田泰史) 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 日本学術振興会特別研究員(SPD) (90783077)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | パリ音楽院 / ピアノ教育 / カノン形成 / 定期試験 / レパートリー / 音楽学 / フランス音楽 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、G.フォーレ院長時代後半(a.1913-1920)とH.ラボー院長時代前半~後期(b.1921-1936)の定期試験曲目データ入力作業を完了し、傾向を比較した。a)同定されたジャンル:1135件、同定された作曲家:1163件。b)ジャンル:3112件、作曲家:3135件。 上記a)・b)の期間につき、作曲ジャンル及び作曲家の傾向を分析した。ジャンルについて、a期の上位3ジャンルは、上からソナタ、性格的作品、変奏曲、b期はソナタ、練習曲、性格的作品である。協奏曲は、いずれの期間においても一割程度に留まる。 作曲家に関しては、77名が同定された。a期に関しては1810年代生、1770年代生、1800年世代の作曲家が、同定された作曲家のべ数の6割を占める。これは、それぞれショパン、ベートーヴェン、メンデルスゾーンに代表され、レパートリーが特定作曲家に集中している。b期でもこの順位は変わらないが、b期の作曲家のべ数の7割に増加し、集中が強まっている。 フランスの作曲家に関しては、a期にのべ138件(a期の同定された作曲家総件数の約12%)が見出され、うちa期の任意の時点まで存命だった作曲家件数がのべ122件(約10%)である。同時代の作曲家、特に院長フォーレの作品(のべ62件)が重視されていることが判る。b期では、フランスの作曲家の割合が更に減る。フランスの存命及び物故作曲家はb期にのべ206件(約6%)が見出され、うちb期の任意の時点まで存命だった作曲家件数(ただし1921年没のサン=サーンスは物故作曲家とみなす)は、僅かのべ23件(b期作曲家総件数の0.7%)に過ぎない。フランス人作曲家の作品に関しては、第一次大戦後のラボー院長時代、フォーレ院長時代に比して、ピアノ科の試験レパートリーは保守化が進んだ。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度の目標は、フランス国立古文書館で収集した史料に基づいて、1913年から1935年までの定期試験曲目データを教育委員会議事録(B群)から転写し、曲目データ(タイトル、作品番号、調、出版年、ジャンル)を抽出することだった。この期間には、教授による生徒の進捗報告書(A群)については史料がないため、もっぱら議事録の入力を進めた。当初の予定では1935年までであったが、1936年度まで進めることができたため、研究の進捗は順調といってよい。また、平成29年度に十分に進まなかった各試験官のコメントが記された史料(C群)も、今年度入力をほぼ終えることができた。以上より、本研究は着実に目標へと向かっており、平成30年度の目標を十分に達成していると評価する。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成31年度は、1937年から1955年までのデータ入力を行う(当初予定していたデルヴァンクール院長期最終年1956年の記録はフランス国立古文書館の資料群AJ 37にないため、入力は1955年までとする)。1939年から試験制度が変わり、ピアノ上級クラスでは定期試験が廃止され次席コンクール(褒賞コンクールで二等賞・次席を獲得していない生徒のための試験)が設置される。最終年度にあたる平成31年度は、1955年この次席コンクールの曲目および予科(第1課程)の定期試験の入力を年度の中頃までに終え、データベース公開にむけ作業を進める。
|