2017 Fiscal Year Research-status Report
中世末期アルザスの世俗主題のタピスリーに関する総合的研究
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17K13354
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
高木 麻紀子 東京藝術大学, 美術学部, 専門研究員 (80709767)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 美術史 / 中世末期 / 世俗美術 / 世俗図像 / タピスリー / アルザス / ストラスブール |
Outline of Annual Research Achievements |
報告者の最終目的は中世末期の世俗美術の展開の諸相を解明することである。本課題では中世末期のアルザスで制作された世俗主題のタピスリー群に注目し、その図像源泉と形成、伝播、機能を、作品分析を基盤とし、パトロンや受容等の制作環境からも明らかにすることを目的としている。以下、当該年度の研究実績を交付申請時の計画に沿って記す。 1)作品の実地調査/資料収集:フランス、スイス、ドイツで調査を行い、撮影や資料収集を進めた。 2)資料の整理/分析―カタログ作成/図像の考察:1に基きアルザスの世俗主題のタピスリーのカタログ作成を進めた。その結果、中世末期の世俗図像の展開という観点から特に15世紀前半のストラスブールのタピスリーの重要性が浮上した。 まず調査により《野人を伴う宮廷恋愛場面》(1420年頃/ストラスブール大聖堂付属美術館)および関連するタピスリーと、《若返りの泉》(1430年頃/コルマール、ウンターリンデン美術館)との間に、装飾模様や技法上の類縁性が確認でき、ストラスブールの同一工房または織師によることが推察されるに至った。 一方、現段階で図像的観点から注視しているのはコルマールの作例である。本作はゲルマン語圏における最初期の「若返りの泉」の例であり、クラーナハ[父]の同主題の作例との類似も指摘されているが、しかし泉自体に注目すると、そのゴシック様式の外観は同時代のフランス写本画における楽園の泉に接近し、また全体の構成においても14世紀フランスで制作された象牙作品との類縁性が観察できる。つまり、コルマールの作例には「若返りの泉」の図像変遷における過渡的特徴が現れていると捉えられ、同時にフランスの宮廷美術がゲルマン語圏に伝播する要衝としてのストラスブールの意義を示唆していると考えられる。そこで今後は図像伝播の具体的手段、作品受容、アルザスとフランス宮廷との政治・文化交流の考察も進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究対象とする作品の関連資料の収集を行うと共に先行研究を把握し、さらに研究実績の概要に記したように新たな知見も得られつつある。 29年度には、ほぼ予定通りに大学の夏季休業期間に海外での調査を行ったが、特にストラスブールとコルマールでは研究対象作品を所蔵する美術館のご助力のもと、収蔵庫での実見調査が叶い、当初想定していた以上の有意義な活動ができた。また、Ph. Lorentz教授(パリ第4大学)と面会し貴重な意見を賜った。帰国後は作品の写真や図版、資料を整理、分類を行い、個別研究に進むための基礎資料の作成を順調に進めた。ただし、本研究課題では研究対象となる作例の所蔵先が広範に渡り、ヨーロッパの他にアメリカでの調査も必須である。そのため2年目にはアメリカで研究対象であるタピスリーを中心とした実見調査、撮影、資料収集を敢行する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
研究推進に際し当初の計画から特筆すべき変更はなく2年目も予定通り進める。29年度は作品の実地調査1回目と資料収集、文献解読を中心に行い、研究基盤の整備を進めた。特にストラスブールとコルマールでは美術館収蔵庫での実見と撮影が叶い有意義な調査ができた。その上で、特にストラスブールで15世紀前半に制作された作例に焦点を絞り、個別研究を進めつつある。30年度は初年度の考察を継続しつつ、蓄積したデータをもとに論考の集成を目指す。具体的な計画は以下の通りである。 1)現地調査(2回目):2年目はアメリカに所蔵される作品の実見調査と関連資料収集を行う。調査対象の1つ《野生人とムーア人》(ボストン美術館)に関しては、ボストン美術館シニアキュレーターLauren Whitleyさんよりモルガン・ミュージアム(NY)で開催される展覧会“Medieval Monster: Terrors, Aliens, Wonders”(2018年6月~)に出品するとの情報を得ており訪問予定である。調査スケジュールは訪問先の都合から多少の変更が生じる可能性があるが臨機応変に対応していく。 2)データ整理、図像分析の継続、関連する研究領域の成果の受容:各種資料の整理、それに基づく図像分析を継続する。2年目には図像伝播の具体相、パトロンや制作背景の考察にも取り組む。歴史学からの研究成果も取り入れ、実地調査や図像分析から得られた結果と照合することで、より具体的な制作状況の解明を目指す。 3)研究成果の発表:初年度に得られた成果と30年度の計画遂行によって得られる考察結果をあわせ、具体的な発表準備に入る。これによって、未だ不明点が多かった中世末期アルザスのタピスリーの基本情報が明らかになると共に、中世末期の世俗美術の展開におけるアルザスのタピスリーの位置付けや意義が、その制作背景と共に浮かび上がると考える。
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Research Products
(2 results)