2018 Fiscal Year Research-status Report
British Theories of Taste and Avant-Garde Art Between the Two World Wars
Project/Area Number |
17K13355
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
石井 祐子 九州大学, 基幹教育院, 准教授 (60566206)
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Project Period (FY) |
2018-02-28 – 2021-03-31
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Keywords | 美術史 / イギリス / 趣味論 / 前衛美術 / シュルレアリスム / 受容 / 画廊 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、20世紀(とりわけ両大戦間期)のイギリス美術における「趣味(taste)」への志向が、同地での前衛的美術の展開と互いにどのような作用を及ぼし合ったのかについて、美学的言説、マスメディアを含む大衆文化、前衛美術の具体的実践の領域の有機的連関から明らかにすることを目的とする。
上記の目的のため、今年度は両大戦間期の純粋芸術と美学的言説における前衛美術の位置付けについて考察した。具体的な課題として、以下の三点を研究計画に掲げた。1)ロンドンをはじめとする大都市部の画廊や美術館、コレクターの蒐集と展示の活動において、どのような作品が好まれ、退けられたかを一次資料から跡付ける。2)そのような傾向を支え、あるいは覆してゆく言説を、前衛美術との関わりから美術雑誌や評論家・美術史家の著作等のテクストから紐解く。3)前衛美術の当事者たちが、上記のような美術市場や展示空間、言説空間に対し、どのようにアピールしたのか。その論理、方法、戦略の内実を具体的作品と各々の言説から検証する。
今年度は、とくに申請者のこれまでの研究との接続を図るなかで、上記の課題をシュルレアリスムの受容と展開という観点から考察することとなった。したがって、関連資料の収集のための海外渡航調査よりも、事前調査によってすでに収集した史資料の分析に注力した。その成果の一部は、以下に記載の研究発表にまとめられている。とくに、「Galleries in Cork Street and the U.K. Reception of Surrealism in the 1930s」は上記1,2の研究課題に関わる。また、「シュルレアリスムの展覧会とカタログ(1)」や「マックス・エルンストを読む:自伝的覚書をめぐる自己同一性の逆説」は、上記研究課題3に関連し、シュルレアリスムやそれに深く関わった芸術家たちが、どのように自らを提示し、どのように受容されたのかについて考察している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述の通り、今年度は、とくに申請者のこれまでの研究との接続を図るなかで、イギリスにおけるシュルレアリスムの受容と20世紀の美術に関する「趣味」という観点から考察することとなった。したがって、当初予定していた海外渡航調査を翌年度に持ち越し、事前調査によってすでに収集した史資料の分析を集中的に行った。このことによって、研究期間全体の研究計画をより効率的に遂行できた。一方で、イギリスの美術市場の歴史的変遷や制度、それらの独自性等については引き続き調査・分析が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は2019年度の研究実施計画に従い、同時期の応用芸術や大衆文化の領域における前衛美術の位置付けに関する調査・検討にも着手する。ファッション誌や映画・演劇等のスペクタクルなどで提示されるイメージを分析し、大衆文化や消費文化の中で実際に流通していた趣味判断の様相を精査するとともに、デザイン史や視覚文化史での研究成果を踏まえ、前衛美術が一般大衆の中でどのように受容されたのかについて新聞や雑誌記事等を調査・検討する。併せて、美術市場の状況についても引き続き検討を続ける。
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Causes of Carryover |
前述の通り、今年度はとくに申請者のこれまでの研究との接続を図るなかで、イギリスにおけるシュルレアリスムの受容と20世紀の美術に関する「趣味」という観点から上記研究課題を考察することとなり、当初予定していた海外渡航調査を翌年度に持ち越した。そのため、若干の次年度使用額が生じたが、研究計画の遂行上必要な繰越であったため、次年度に予定しているイギリスでの調査予算として使用する。
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