2020 Fiscal Year Research-status Report
British Theories of Taste and Avant-Garde Art Between the Two World Wars
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17K13355
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
石井 祐子 九州大学, 基幹教育院, 准教授 (60566206)
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Project Period (FY) |
2018-02-28 – 2022-03-31
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Keywords | Taste / 歴史的前衛 / イギリス / モダニズム / ハーバート・リード / シュルレアリスム国際展 / ローランド・ペンローズ / ハンフリー・ジェニングス |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は当初の計画に従い、前衛美術に関わった芸術家、理論家、批評家、パトロン等が、具体的にどのようにして前衛美術を「良き趣味」の問題圏に投げ入れたのか、あるいは具体的にどのような戦略でそこから距離を取り、いかなる結果をもたらしたのかについて考察した。 1910年代からすでに顕在化しているように、モダニズムは「大衆」と敵対していた一方で公共性や市場を放棄したわけでなかった。そのことは、ロジャー・フライによる1910年と1912年のポスト印象派展やブルームズベリー・グループの活動、オメガ・ワークショップなどにも顕著である。フライが死去する前年(1933年)に『バーリントン・マガジン』の編集長に就任したハーバート・リードもまた、シュルレアリスムとの関わりを足掛かりとしてモダニズムや前衛美術の民主化や公共的推進を図った。今年度は、前年度までに考察した1936年のシュルレアリスム国際展(ロンドン、ニュー・バーリントン画廊)をめぐる論点を20世紀前半の記念碑的展覧会との比較考察にもひらくことで、上述の研究計画に幅広く取り組むことができた。とくに、ルパート・リーをはじめとする実行委員会メンバーの展覧会組織戦略が、フライのポスト印象派展と共通する点が多いこと、当時の新聞記事においても両者を結びつける言説があることが明らかとなった。 1936年のシュルレアリスム国際展については、翌年6月に東京で開催されたシュルレアリスム「国際」展(「海外超現実主義作品展」於、日本サロン)に関する調査の中でその企図と受容の様相を多角的に再検討し、紙面の都合上限定的ではあるが今年度の査読論文に反映された。また、1930年代ロンドンの代表的な画廊やパトロンの嗜好を調査する中で、ドイツ出身の前衛的美術家であるマックス・エルンストの同地での活動と受容についても考察し、その成果の一部は今年度刊行の報告書に活かされた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、新型コロナウィルスによる感染症拡大の影響が大きく、予定していた研究会や調査ができないことが多かった。また、海外渡航調査も中止となり、計画していた今年度の研究課題や成果発表において遅れが生じた。とりわけ教育の場(学校やミュージアムなど)や、映画館や劇場などのスペクタクルの場において、前衛美術的趣味がいかに受容されたかを検証するための資料収集等については次年度に持ち越されることとなった。一方で、オンライン・アーカイヴや2020年に刊行された重要な関連文献等を精査することによって、課題全体の見取り図を俯瞰的に把握・考察する作業に集中することもできた。よって、当初計画より遅れていることは確かであるものの、残された課題や論点の整理を適切に行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度を次年度まで延長することが認められたため、2020年度に計画変更を余儀なくされたことによって残された課題に取り組みたい。具体的には、教育の場(学校やミュージアムなど)や、映画館や劇場などのスペクタクルの場において、前衛美術的趣味がいかに受容されたかを検証する。また、本研究課題に取り組むうえで重要な事例として検討しているロンドンでのシュルレアリスム国際展について、その後の展開も考慮に入れて考察を深めたい。なぜなら、本展に関わったハーバート・リード、ローランド・ペンローズ、ハンフリー・ジェニングスらは、その後マス・オブザベーションやインスティテュート・オブ・コンテンポラリー・アーツ(ICA)の設立に関わっており、イギリスのモダニズムや歴史的前衛の組織化や公共的趣味の形成について考える際にも重要な事例となるからである。よって次年度は、サセックス大学にあるThe Mass Observation Archiveや、ICAに関するアーカイヴ調査も行いたいと考えている。そのためにはイギリスへの渡航調査が必要となることも予想されるが、2021年も感染症拡大の状況を注視しつつ臨機応変に対応したい。最終的には、それまでの研究成果に基づき、両大戦間期の「純粋芸術」や美学的言説の場と、応用芸術と「大衆文化」の領域を自覚的に横断する同時期の前衛的芸術の領域を見極め、その概念モデルを再構築することに努める。
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Causes of Carryover |
2020年度は新型コロナウィルス感染症拡大の影響により、国内外への旅費が使用できなかった。そのため、予定していた旅費、および研究会開催等に伴う業務にたいする予算として計上していた人件費・謝金等が使用できず物品費のみの使用となった。次年度は、感染症拡大の状況を引き続き注視しつつ研究を進めることになるが、国内外の移動が可能になり次第研究計画に従って旅費を使用するほか、移動の制限により必要となった史資料収集に関する諸費用を物品費およびその他の予算から適切に使用していきたい。
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