2018 Fiscal Year Research-status Report
ドラクロワによる「反復」制作の意義―アカデミーと前衛の交錯の中での実践と受容―
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17K13356
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Research Institution | Onomichi City University |
Principal Investigator |
西嶋 亜美 尾道市立大学, 芸術文化学部, 准教授 (50713781)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ドラクロワ / 西洋美術史 / フランス近代美術 / 美術批評 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、19世紀フランスの画家ドラクロワの作品中、同テーマや同構図での繰り返し制作としての「反復」の全容と意義を、制作過程と受容の両面から解き明かすことを目指している。一年度目に概要把握の作業を終え、二年度目となる2018年度は事例研究を続行している。 成果として、論文「「小説」をもとに「詩」的な絵画を 『アイヴァンホー』をめぐるドラクロワの挑戦」がある。2017年度のニューヨーク等での調査と2018年5月に実施したパリでの調査を踏まえ、懸案であったドラクロワ後年の同じ文学主題の繰り返しを分析したものである。論文執筆に先立ってリアリズム文学研究会において発表し、文学および美術史の研究者に様々な示唆的な意見を頂いた。具体的には、(a)批評資料の渉猟により、晩年の物語画に対する世論の困惑を指摘したうえで、(b)ウォルター・スコットに対するドラクロワの絵画と文章による取り組みを丁寧に読み解き、(c)絵画と文学におけるレアリスムとの対峙を通じて、1850年代のドラクロワが新たな物語画へのアプローチを獲得したことを示した。この仕事は、晩年のドラクロワの美術理論と絵画制作が連関していることを、文学を切り口に明らかにする試みである点でも意義があると考えている。 また、研究の過程でパリに赴いてルーヴル美術館におけるドラクロワ回顧展他、関連企画を調査した。モデルに基づく制作と、記憶に基づく制作という二つの画家の傾向の変遷は図録論文でも指摘されており、「反復」研究にも大いに有効な視点であることを再確認できた一方、政治的なアプローチの欠如など物足りない点も多く、ドラクロワ研究の今後の発展の必要性を実感した。 以上に加えて、ドラクロワの宗教画における「反復」の研究にも文献調査から着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書及び前年度の実施状況報告書記載の研究計画に沿って記す。2018年度は主に(2)事例研究と(3)理論研究を進める予定であった。 (2)事例研究においては、『アイヴァンホー』主題諸作品に関する論文を執筆することで、文学作品を主題とした「反復」に一定の見解を示すことができたのが大きな成果であった。文学等異分野の研究者にも意見を伺いつつ、批評資料の渉猟、再度の日記精読、原典となる『アイヴァンホー』の複数の版の確認を行うことで、時間はかかったが、後年のドラクロワ作品読み解きの道筋を得ることができた。さらに、宗教主題の作品研究に関しても、19世紀中盤から後半にかけてのキリスト教の状況から資料調査を開始しているため、予定通りである。 (3)理論研究に関しては、交付申請書の時点ではまず美術辞典の調査を行うことが予定されていたが、一年目に電子化された資料を中心に概略的に調べたところ、先行研究に大きく加えるべき成果を得られずにいた。2018年度は一度パリで調査を行ったが、展覧会の開催時期の都合で学期中の滞在となったため、辞典類の包括的調査には至っていない。一方、批評の収集はすでに開始しており、批評を読み込んで問題意識を先鋭化させたうえで理論書や辞典類にあたるというアプローチが効果的であるように思われ、若干の方向転換を図るつもりである。 以上より、一部海外調査が十分に行えなかったための遅れがあるものの、おおむね順調に計画を進められている。
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Strategy for Future Research Activity |
以下は主に2019年度に関して、現在の進捗状況を踏まえ、交付申請書記載の研究推進方策に修正を加えたものを記す。 まずは、事例研究において、宗教画の「反復」の調査を続行する。当初の予定では、2019年度の早々に成果をまとめて、オリエント主題の諸作品の事例研究に移行するはずであった。しかし、現在着手したところの感触では、範囲を絞った作品研究では、ドラクロワの宗教画制作について、またその「反復」について説得力のある見解を導き出すのは困難であるように思われる。そのため、背景の風景表現やオリエント主題作品、さらには同時代の他の画家による宗教画作品との相互の関連にも注目しながら、慎重に研究を進める。あわせて、次年度以降に海外で研究成果の一部を発表する機会を積極的に探す。 他方、理論研究においては、一度美術理論や辞典類の調査は中断し、受容の調査のための批評文収集を続行する。事例研究で扱っている宗教画関連の批評を優先的に収集・検討して研究に生かすとともに、徐々に対象を広げ、ドラクロワのサロン出展および公的な注文制作に対する批評については網羅的に収集する。その上で、読み進めて、同じ主題や構図の諸作品に対して、どのような評価や位置づけがなされていたのかを検討する。特に、複数の画家が同主題の作品を展示したサロンなどの展示機会や、過去の作品を比較対象として作品分析を行っている批評などに注目する。 上記の批評資料収集に加え、素描やパステル、水彩等の資料を比較対象として参照するため、海外調査を一度行うこととする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は主に二点である。 まず、資料整理のためのアルバイト雇用が引き続き出来ていないことがある。画像資料の収集がそれほど進んでいないという以上に、学内委員会業務に追われてシステム構築を行う十分な時間が通常の就業時間内に確保できなかったことが大きい。次に、資料収集のために書籍を購入する予定が、複写や閲覧で用を成したことが度々あったことである。 次年度以降の使用額に関しては、海外調査期間の確保、資料収集、および資料整理のシステム構築に充てることとする。
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