2021 Fiscal Year Research-status Report
ドラクロワによる「反復」制作の意義―アカデミーと前衛の交錯の中での実践と受容―
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17K13356
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Research Institution | Onomichi City University |
Principal Investigator |
西嶋 亜美 尾道市立大学, 芸術文化学部, 准教授 (50713781)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | フランス近代美術史 / ドラクロワ / 美術批評 / 宗教画 / 絵画と文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、19世紀フランスの画家ウジェーヌ・ドラクロワの作品中、同じテーマや同構図を繰り返し制作する「反復」の全容と意義を、制作過程と受容の両面から解き明かすことを目指すものである。 育児休業より復帰した2021年度は、2020年に口頭発表を行ったボストン美術館蔵《墓のキリスト》の研究のなかで、宗教画の受容においては、もともとヴァリエーションに乏しい宗教主題作品自体が、一種過去作品の「反復」として捉えられることがあったとの知見を得られたことを出発点として、受容面での「反復」の位置づけをさらに検討すべく、批評の収集を行った。宗教画関連の批評から分析を続けているが、成果としての公表は次年度以降に行うこととなる。 また、ドラクロワの1850年前後以降の制作と芸術論との関連を探るうえで非常に重要と考えられるドラクロワ著「プッサン論」(1853年出版)の研究を開始し、三部構成のうち二部までの翻訳を『尾道市立大学芸術文化学部紀要』にて発表した。この文章は、ドラクロワ本人の芸術観の他、19世紀における「芸術家像」の枠組みからも重要な資料であると考えている。研究は続行中であり、翌年度は残りの翻訳を公開するとともに解題として成果を公表する。その中では、19世紀の芸術家にとっての制作および考察の「糧」としての過去の芸術家の人生・作品の意義を解き明かし、いわば、過去の芸術家の足跡の「反復」について考察を加えることになる。 さらに、本研究開始前からの成果を含む、ドラクロワの文学主題作品群における「反復」に関しての研究成果を、書籍として出版するための準備を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度に口頭発表を行ったドラクロワ作《墓のキリスト》(ボストン美術館)についての論文を不注意により投稿できなかったことが最大の理由である。この作品については、おおよそ論文投稿に足る研究成果が出ているので、2022年度は確実に活字にすることとする。 他、海外調査ができていないことでペースは落とさざるを得なかったが、電子化されたものを中心に資料収集と分析を地道に進めることができた。一次資料の翻訳も部分的に発表できたので、育児と平行しての研究成果としては十分挽回可能なものだと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、第一に、すでに大方内容が仕上がった制作面からみた「反復」についての研究の公表に向けた作業を進める。すなわち、(1)ドラクロワの文学主題諸作品における「反復」についての研究成果を、書籍として出版すべくまとめる作業を終えて出版助成に応募すること、そして、(2)ドラクロワ作《墓のキリスト》(ボストン美術館)を中心に宗教画を扱った論文を学会誌に投稿することとする。 第二に、受容や画家をめぐる環境からみた「反復」に関してはまだまとまった成果を上げられていないため、引き続き収集・分析を続ける。とりわけ、批評の分析作業を進め、差し当たっては「反復」を含む表現への反響の時代的変化を1830年代から1850年代にかけてのスパンで明らかにすることを目指す。他方、「プッサン論」の翻訳については、残された部分の翻訳を完成するとともに解説を執筆し、さらに範囲を広げて19世紀の芸術家にとっての制作および考察の「糧」としての過去の芸術家の人生・作品について、研究を続行する可能性を探っていきたい。
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Causes of Carryover |
もともと2019年度の途中から2020年度にかけての中断と研究期間の延長により、2019年度の予算を使いきれていない状態であり、さらに、2021年度はコロナ禍と育児のため、海外および国内での出張調査を行うことができなかったため、旅費を執行できず、大幅な次年度使用額が生じている。 2022年度は2つの研究成果のまとめと公表(項目8「今後の研究の推進方策」における(1)ドラクロワの文学主題諸作品についての書籍と(2)ボストン美術館蔵《墓のキリスト》の論文)を目指しており、そのために最終段階で必要な調査等が生じた際に、旅費・書籍資料費として用いる。また、続行中の受容の研究に際して資料を取り寄せ・購入するための費用や、整理・分析のための物品購入とアルバイト雇用にも用いる。「プッサン論」翻訳に関しては引き続き専門家への助言を依頼しており、その謝礼にも充てる。
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