2022 Fiscal Year Research-status Report
ドラクロワによる「反復」制作の意義―アカデミーと前衛の交錯の中での実践と受容―
Project/Area Number |
17K13356
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Research Institution | Onomichi City University |
Principal Investigator |
西嶋 亜美 尾道市立大学, 芸術文化学部, 准教授 (50713781)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | フランス近代美術史 / 美術批評 / ドラクロワ / 絵画と文学 / 反復 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、19世紀フランスの画家ウジェーヌ・ドラクロワの作品中、同じテーマや同構図を繰り返し制作する「反復」の全容と意義を、制作過程と受容の両面から解き明かすことを目指すものである。 2022年度は育児とコロナ渦による制限に加え、後期に体調を崩した関係もあって、実地での資料渉猟・作品の実見による分析が困難な状況が続いているため、より理論的なテキストの分析にシフトして研究を進めることとなった。 中でも、昨年度着手したドラクロワ著「プッサン論」(1853年出版)翻訳を完遂するとともに、ドラクロワの参照資料や執筆の方法を考察しつつ19世紀の芸術家にとっての制作および考察の「糧」としての過去の芸術家の人生・作品の意義を解き明かす解題を『尾道市立大学芸術文化学部紀要』にて発表した。この解題の内容は一部、公開研究会の場で口頭発表も行ったものである。さらに、年度末より新たな課題として『日記』の翻訳の作業を開始している。時間のかかる作業ではあるが、作品や19世紀の文化の受容環境上重要な資料に向き合う好機と考えている。 一方、作品研究に関しては思うように実績を挙げられていないのが現状である。ドラクロワ作《墓のキリスト》(ボストン美術館)に関しては新たに課題が浮上して、考察の範囲を広げる必要が出てきた。また、ドラクロワの文学主題作品群における「反復」に関しての研究成果を、書籍として出版するための手続きに関しても、具体的な作業は今後進める運びである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「反復」の制作面での研究においてまとまった成果を上げられなかったことが主たる理由であり、2023年度には着実に進展させたい。 一方、引き続き海外調査ができていないことによるペースの遅れはあるが、電子化された資料や出版されているテキストの精密な読解は本研究における「反復」の検討においても意義があると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、(1) 作品研究面で成果を公表できる形にまとめることと、(2) 受容の側面や理論的な方向での「反復」に関して考察をまとめる段階に入ることを考えている。 (1)の作品研究においては、まずドラクロワ作《墓のキリスト》(ボストン美術館)をはじめとする宗教画の作品研究について、2022年度に明らかになった課題を解消し、研究をまとめる。さらに、ドラクロワの物語画と文学の書籍に関しても作業を進める。 (2)のテキスト研究においては、『日記』翻訳など、出版されたテキストの精読を進めるとともに、一定の範囲で反復の重要に関する考察をまとめることを目指して研究を進める。2023年度には、現地調査により資料調査の範囲を広げることも予定している。
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Causes of Carryover |
コロナ渦に伴い研究課題に関連する海外・国内の出張が実施できなかったこと、また、出版済みの文書資料の研究にシフトしていたことから、大幅に次年度使用額が生じている。現地調査による効率的な作品・資料調査が行えなかったことを主たる理由として、本課題の補助事業期間を一年延長し、次年度にはパリでの現地調査を行うこととする。さらに、研究効率の改善を期して、補助的な書籍などの資料の収集や資料整理アルバイトの導入を行うこととする。
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