2017 Fiscal Year Research-status Report
ローマ・クアドリエンナーレにみる定期美術展の形成と変容(1931-1956)
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17K13378
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Research Institution | Kyoto University of Art and Design |
Principal Investigator |
鯖江 秀樹 京都造形芸術大学, 芸術学部, 非常勤講師 (30793624)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 定期美術展 / 美術批評 / 戦後美術 / イタリア / モダンアート / 地域アート / 全体主義 / 1950年代 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究における三つの課題のうち、とくに「(A)実証研究:第1回から第7回までのクアドリエンナーレの実態調査」を実施した。本年度は、当該美術展を考察する基盤として、「調査項目と資料総数の特定」および「資料に基づく出来事の再構成」に見通しをつけることを主眼とした。2017年9月のイタリア現地調査では、ヴェネツィア・ビエンナーレを視察した後、ローマ・クアドリエンナーレ財団のアーカイヴにて三日間の文献調査を行った。その結果、主に次の二種類の一次史料を入手することができた。ひとつは第一回から七回までのクアドリエンナーレ公式カタログであり、もうひとつは、戦後再開された第四回から第七回までのクアドリエンナーレに関連する、新聞や雑誌に掲載された論評・記事である。 財団から許可のもと、上記の史料をすべて撮影することができた。また、財団からは本研究に対する全面的な協力を得ることができた。一次資料の発掘は、本研究の中核をなすものであり、財団側からの協力は今後の研究の進展に大きく貢献するだろう。 帰国後、撮影された二千枚におよぶ史料画像を分類、精読し、今後検討すべき論点や事実を確認する作業を継続している。クラウディア・サラリスによるクアドリエンナーレ論(2004) との比較検証を通じて、次年度の現地調査に向けた課題の明確化に努める。 年度末には、研究会「20世紀イタリアの芸術と文化」(2018年3月18日京都造形芸術大学)にパネリストとして参加し、本研究で培った知見を公開するとともに、戦後美術や思想を専門とする研究者と有意義な意見交換を行うことができた。 以上のような研究活動を通じて、現段階で、今年度の懸案事項であった「調査項目と資料総数の特定」および「資料に基づく出来事の再構成」について一定の見通しを立てることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究は、代表者の勤務先の異動準備のため、年度末において予定されたスケジュール通りに進めることができなかった。しかしながら、全体としてはおおむね順調に進展した。9月のローマでの現地調査によって、とくに研究資料の面で予想以上の成果があった。クアドリエンナーレ財団の史料は原則撮影が認められていないが、丁寧に研究主旨を説明することで、事務局長に撮影を許可してもらえたことが成果につながったことを報告しておきたい。 調査対象となる第1回から7回までのクアドリエンナ―レのカタログは、この定期美術展に関する基本情報(開催理念、参加した芸術家など)を提供するものであり、本研究の柱のひとつである(B)「マネジメント研究:クアドリエンナ―レに関連する組織編成、法制度、関連事業の背景調査」に資する情報が含んでいた。 また、各回に関連する報道記事を入手することができたことも大きな収穫であった。これらの史料は、観客の反応や批評家の批判まで幅広い内容を含む。クアドリエンナ―レが同時代にどのように受けとめられていたかを示す時代の貴重な証言であり、研究対象を複合的な観点から分析する視座を提供するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は研究テーマ(C)「言説研究:クアドリエンナ―レに対する美術家・批評家たちのまなざし」について調査を進める。たとえば、クアドリエンナーレという「官展」が、美術家や批評家にどのように理解されていたのか。あるいは、その官展に対抗するギャラリーの企画や文化的イベントがあったのか。こうした論点に結びつく史料は発見できなかった。そこで、今年度9月上旬に実施予定の現地調査では、上記の疑問に直結する美術雑誌や文献を数多く所蔵する近代美術研究家、エンリコ・クリスポルティの私設アーカイヴでの史料調査を行う。 上記アーカイヴでの調査については、クアドリエンナ―レ財団の協力を仰ぐことにより、スムーズに許可を得ることができるだろう。本調査によって、芸術家グループ「芸術新前線」の活動実態を具体例とした対抗文化とクアドリエンナ―レの関係性、およびミラノとヴェネツィアの定期美術展との差異について考察を進める。 また、2018年11月17日に開催される表象文化論学会にて、過去2年の研究成果を個人発表する予定である。
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Causes of Carryover |
前年度の予算計画のなかで、日本語文献の購入に充てる費用を使い切ることができなかった。現地で収集した文献画像が予想以上に多かったため、読解に時間を要したからである。今年度は、国内で近年研究が目ざましい「地域アート」に関連する文献の購入に充てることで、本研究をいっそう充実させる。
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