2018 Fiscal Year Research-status Report
ローマ・クアドリエンナーレにみる定期美術展の形成と変容(1931-1956)
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17K13378
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Research Institution | Kyoto Seika University |
Principal Investigator |
鯖江 秀樹 京都精華大学, 芸術学部, 准教授 (30793624)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 定期美術展 / 美術批評 / 戦後美術 / イタリア / モダンアート / 地域アート / 文化政策 / 動態文化論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、本研究課題の3つのテーマのうち、(A)「実証研究:第1回から第7回までのクアドリエンナーレの実態調査」、および(C)「言説研究:クアドリエンナ―レに対する美術家・批評家たちのまなざし」を実施した。前者については、①ローマ・クアドリエンナ―レ財団アーカイヴでの一次史料調査(2019年3月)を、後者については②表象文化論学会での研究発表(2018年11月)を遂行した。 ②は当初、①の史料調査の後に行う予定であったが、台風の影響で現地調査が延期となった。研究を進めるうえでは大きな負担になったが、入手可能な文献を前倒しで購入・精読するなど、柔軟に対応した。結果的には、予定通り「芸術の前線──ローマ・クアドリエンナーレの貫戦史」を発表することができた。この発表は前衛的芸術家エンリコ・プランポリーニに関するものだったが、かえって今後調査すべき芸術家・理論家のネットワークが明確になった。つまり、本研究はイタリア国内の美術状況のみならず、国境を超えたアーティスト相互の影響関係のもとに考察すべきテーマであることを再認識した。 ①は、昨年度に続く文献調査であった。財団の協力のもと、次の二種類の一次史料を入手することができた。ひとつは第1回から4回までの(第二次大戦以前の)クアドリエンナーレ公式カタログであり、もうひとつは、戦後再開された第1回から第2回までのクアドリエンナーレに関連する、新聞や雑誌に掲載された論評・記事である。現地調査により、これまで美術史学では浮上してこなかった美術ジャーナリストたちの存在が浮かびあがってきた。各回のクアドリエンナーレに足繁く通ったかれらは、いわば定期美術展の定点観測者であり、2019年度の研究に重要な示唆を与えることになるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は、前述のように台風の影響によるスケジュールの変更があったものの、おおむね予定通り研究を進めることができた。 研究発表「芸術の前線──ローマ・クアドリエンナーレの貫戦史」(表象文化論学会第13回研究発表会、2018年11月10日)は、戦後初の第5回クアドリエンナーレの展示空間において異彩を放った若手画家のグループ「フォルマ1」の作品とプランポリーニの画風の変貌を関連づけ、それらが戦前にヨーロッパで形成されていた抽象画家たちのネットワークの所産であることを明らかにした。この点が歴史的に重要なのは、大戦直後のイタリアが米ソ冷戦構造の縮図の様相を呈していたことに関わっている。この点については、(ピカソの《ゲルニカ》が端的に示すように)社会批判としての前衛美術をいかに解釈するか、という問題との関連で考察されてきた。結局、イタリア共産党はピカソ風の絵画を否定することになるが、その歴史理解はファシズムと左翼との二項対立図式を超えるものではないだろう。それに対して本発表では、既往研究では強調されてこなかった、戦前の抽象美術との連続性(美術の貫戦史)を指摘した。研究の結果、クアドリエンナーレという場が、これまで見落とされていた歴史的視座を補完する可能性を秘めていることを再確認できた。 また、前述の現地文献調査を6日間実施した結果、全体のおよそ8割の文献を撮影することができた。2019年度は文献の整理および精読に注力する。その読解のなかで、新たな研究課題が浮上することも想定されるため、研究の比較対象となるミラノ・トリエンナーレの開催に合わせて、クアドリエンナーレ財団に現地調査をすでに依頼済みである。
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Strategy for Future Research Activity |
トリエンナーレの開催に合わせて2週間、ミラノとローマにて現地調査を実施する。主な調査目的は、「(A)実証研究:第1回から第7回までのクアドリエンナーレの実態調査」および「(B)マネジメント研究: クアドリエンナーレに関連する組織編成、法制度、関連事業の背景調査」である。ミラノ・トリエンナーレについては、(B)に関連する1933 年の「芸術館における壁画剥落事件」に関する資料を調査する。 また、昨年度の学会発表によって浮上した課題として「美術家たちの国際的なネットワーク」がある。とくに(クアドリエンナーレやトリエンナーレの展示内容に深く関連する)イタリアの抽象美術やデザインを考察するうえで、キーパーソンとなるのが、画家、美術教育者として知られるマックス・ビル(1908-94)だと推察される。この美術家については日本での研究の蓄積が乏しい。さいわい、ミラノ・トリエンナーレと同時期にスイスにてマックス・ビルの「具体美術」に関する大規模な回顧展が開催されるため、行き先をヴェネツィアからチューリヒに変更し、現地調査を実施したい。合わせてイタリアにおける具体美術の影響についてクアドリエンナーレ財団にて調査を行い、その成果を今年度中に査読付き論文としてまとめる予定である。
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[Book] 幻の万博2018
Author(s)
暮沢 剛巳、江藤 光紀、鯖江 秀樹、寺本 敬子
Total Pages
298
Publisher
青弓社
ISBN
9784787274144