2019 Fiscal Year Research-status Report
ローマ・クアドリエンナーレにみる定期美術展の形成と変容(1931-1956)
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17K13378
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Research Institution | Kyoto Seika University |
Principal Investigator |
鯖江 秀樹 京都精華大学, 芸術学部, 准教授 (30793624)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 定期美術展 / 美術批評 / 戦後美術 / イタリア / モダンアート / 芸術祭 / 文化政策 / 地域アート |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、本研究課題の3つのテーマのうち、(A)「実証研究:第1回から第7回までのクアドリエンナーレの実態調査」を実施した。2019年8月から9月にかけて、チューリヒ、ミラノ、ローマを訪問し、各地でトリエンナーレをはじめとする関連展覧会を視察し、ローマ・クアドリエンナ―レ財団アーカイヴでの一次史料調査を遂行した。 今回の調査で一次史料の収集はほぼ終えることができた。チューリヒを訪問したのは、近代芸術に重要な足跡を残しながら、少なくとも我が国では十分に理解されていないマックス・ビルに関連する展覧会を調査するためであった。前年度の研究調査により、イタリア国内の美術状況のみならず、国境を超えたアーティスト相互の交流・影響関係が本研究において問いの核心になるとの認識を得た。マックス・ビルはその関心に応じた、新たな研究対象である。 帰国後には、収集を終えたクアドリエンナーレの公式カタログ、新聞や雑誌に掲載された論評・記事を整理・精読にあたった。前年度の研究により、これまで美術史学では浮上してこなかった美術ジャーナリストたちが、定期美術展の定点観測者であったことを突き止めていたが、彼らの批評言説は自律的価値を持つというより、むしろ同時代の芸術理論と社会情勢を色濃く反映したものだと解釈できる。そのことが端的に示されているのは、1935年の第二回クアドリエンナーレであることは、イタリア国内の先行研究を参照しても間違いないように思われる。今年度はこの第二回展を軸に、(B)マネジメント研究: クアドリエンナーレに関連する組織編成、法制度、関連事業の背景調査、および(C)言説研究:クアドリエンナーレに対する美術家・批評家たちのまなざしについてさらに調査を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、2月から3月にかけて、新型コロナウイルスに関わる本務校業務のため、思うように研究を進めることが難しかったが、それより前の時期には、かなり順調に研究を遂行できた。これまでの調査により、1935年の第二回展がクアドリエンナーレ史を画期する転換点だったことを、展示作品と批評言説の検討によって明らかにすることができた。その機運を醸成するにあたって、理論的な分析や評価が思いのほか、重要な意味を持つと同時に、ファシズム体制下にありながら美術の積極的な交流があったことも見逃せない。前者の理論的側面については、当時の代表的論客のひとり、ロベルト・ロンギの芸術批評について論文をまとめることができた(「ある訳注への補遺――ウンベルト・ボッチョーニの彫刻とロベルト・ロンギのエクフラシス」)。 他方、日本では「あいち・トリエンナーレ」での展示中止や補助金問題などが注目を集めた。本研究はそもそも、「近年世界各地で開催されている芸術祭や国際美術展の存在意義について、歴史的な観点から提言すること」を最終目的としている。とりわけ現下の芸術祭の状況にあって、美術をめぐる制度の問題は改めて脚光を集めている。本研究の3つの柱のひとつである(B)マネジメント研究: クアドリエンナーレに関連する組織編成、法制度、関連事業の背景調査のアクチュアリティが切実さを帯びつつあることを報告しておく。
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Strategy for Future Research Activity |
実現が危ぶまれるものの、今年度10月から開催予定であるローマ・クアドリエンナーレに合わせて一週間の現地視察を実施する(とはいえ、コロナウイルス感染拡大を懸念して、計画を柔軟に変更するつもりである)。過去三年の研究成果の補完に重点を置き、三つの個別課題を総合的にまとめ上げていくことが本年度の目標であるが、「(B)マネジメント研究: クアドリエンナーレに関連する組織編成、法制度、関連事業の背景調査」については、実際の組織設計や制度運用の実状について、資料に基づく理解を進める必要がある。資料の整理・データ化と並行して、この課題に取り組みたい。その成果を表象文化論学会での研究発表(11月開催予定)にて公表し、識者との意見交換を実施する予定である。研究成果の出版準備に着手する予定である。 さらに、現地調査を果たせた場合に遂行したいのが、(C)言説研究:クアドリエンナーレに対する美術家・批評家たちのまなざしに関する研究である。今年度開催されるクアドリエンナーレは国内展であるがゆえに、現地での細やかな情報収集が欠かせないだろう。可能であれば、企画キュレーターの意図や批評家たちの評価を、過去のクアドリエンナーレとの比較のなかで考察したい。
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[Book] 風景の哲学2020
Author(s)
パオロ・ダンジェッロ、鯖江秀樹
Total Pages
320
Publisher
水声社
ISBN
9784801004719