2020 Fiscal Year Annual Research Report
Relationship between History and Literature in the Mid-Meiji Period
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17K13390
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
木村 洋 上智大学, 文学部, 准教授 (70613173)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 文明史 / 文学史 / 田口卯吉 / 山路愛山 |
Outline of Annual Research Achievements |
「文明史から文学史へ」という論文を書いた。この論文では田口卯吉などの在野史学の動きを取り上げた。1870年代から田口卯吉たちによって文明史が日本の思想界に広められる。文明史は従来の歴史叙述のありかたに抗しながら、知識人の関心を精神や思想の歴史に向かわせる。さらにこの動向に促されるかたちで、山路愛山たちに手になる文学史が現れる。そして日露戦争後に文学史言説は、『太陽 明治史第七編 文藝史』に象徴されるように、いっそう言論界のなかで存在感を持ち始める。そこで文学史は文学者を偉人化し、その伝記的事実への興味を高め、それを通じて告白小説の隆盛を支えた。以上のことをこの論文に記した。『日本文学』にこの論文が掲載されることが現時点で決まっている。 この論文では知識人たちが政治問題とは異なる、人生や自己といった問題に沈潜していく傾向を取り上げた。この思想潮流をさらに明らかにするために、「女哲学者、平塚らいてう」という論文を書いた。 ここでは哲学と文学をめぐる明治思想界の地殻変動の様子を辿った。1900年代において文学と哲学は社会道徳や国家に反抗する個人主義者たちの精神活動の土台になる。こうした動向が、小栗風葉の小説「さめたる女」(1901年)のように、哲学的な知見に支えられた新しい女性像を生み出した。そして1906年には哲学者風の女学生の過激な主張が話題を呼ぶ。1900年代に統治権力や保守派論客が哲学を有害と見るようになるのもそのためだった。平塚らいてうもこうした女哲学者の系譜の一員なのである。森田草平『煤煙』(1909年)では哲学的な思索を通じて社会道徳に反抗する平塚らいてうの姿が詳しく書き留められている。明治時代の思想界はこのように女哲学者の育成を通じて、自己を更新するきっかけを手に入れた。以上のことをこの論文に記した。この論文を2021年度中に学術雑誌に発表したい。
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Research Products
(2 results)