2017 Fiscal Year Research-status Report
戦後日本マンガはいかなる物語を描いたか―戦前・戦中期の児童文化との比較から―
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17K13391
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Research Institution | Tokyo Seitoku University |
Principal Investigator |
森下 達 東京成徳大学, 人文学部, 助教 (00775695)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | マンガ / 児童文学 / 手塚治虫 / 少年倶楽部 / 石ノ森章太郎 |
Outline of Annual Research Achievements |
戦前・戦中期に児童層にもっとも人気を博した雑誌『少年倶楽部』(大日本雄弁会講談社)についての調査を終えた。この調査を通じて、(1)同誌においても海外児童文学の翻案掲載が多数行われていたこと、(2)それらの作品で重視された「孤児」というモチーフが、偉人伝記や日本人作家による創作にも広がっていたこと、(3)しかしそれは、講談社文化の中核をなす「立身出世主義」と矛盾しないものに留まっていたこと、の三点が明らかになった。成果については、「戦前・戦中期の『少年倶楽部』における海外児童文学の受容」と題し、日本近代文学会秋季大会にて発表を行った。『少年倶楽部』は、従来、軍国主義と歩調を合わせた冒険小説や軍事小説に注目が集まっていたが、そうした動きに留まらない要素があったことを示しえた点は、本発表の大きな意義であるといえる。 そうした「孤児」モチーフが、児童文化の底流をなす「戦い」の要素といかに絡みつつ、消化されていったのかについては、手塚治虫の初期作品を中心に検討を行った。並行して、手塚の弟子筋にあたる石ノ森章太郎作品の分析を行い、昭和文学会春季大会における発表「子ども向けマンガにおけるヒーローの挫折――石ノ森章太郎作品の検討から――」では、作中で描かれる「戦い」が、マンガの外部の現実社会における出来事と結びつけられなくなっていく過程を描き出した。これらの研究および発表を通じて、主人公の少年の「戦い」を通じて外部の社会にも働きかけを行うといった、戦前・戦中期から戦後期を貫く形で見られる児童文化の基本的スタイルが、いかに形を整え、またいかに失効していったのか、その概要を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
『少年倶楽部』における海外児童文学受容について検討した結果、上記のような成果があがったが、講談社系列の作家たちとは別に、大正期の『赤い鳥』以来の日本の児童文学との連続性をどう考えるかという問いが持ち上がった。海外児童文学は、明治期以降ひんぱんに翻訳され、多くの児童文学者が参照してきた。そして1930年前後は、旧来的な児童文学にも、あるいは大衆文化にも、「孤児」というモチーフが広く取り上げられた時代としてあった。1920年代後半の『少年倶楽部』における日本人作家による創作にも、海外児童文学の掲載とは直接の関係がない形で、「孤児」モチーフの導入が行われてもいる。こうした点について新たに考える必要が生じ、旧来的な児童文学作家による創作の再点検と、『少年倶楽部』に連載された小説作品の再点検を行った。その結果、日本近代文学会での発表「戦前・戦中期の『少年倶楽部』における海外児童文学の受容」を論文化する作業に遅れが生じた。現在、「戦前・戦中期の『少年倶楽部』における孤児の物語」として、ようやく論文化を行っているところである。 また、戦後のマンガに関しては、手塚作品および石ノ森作品の検討のあとは、手塚以外の作家による、戦後すぐの赤本単行本作品の検討に進むつもりであったが、これらの単行本は当初予想していた以上にまとまった所蔵がなされておらず、研究が予定どおりに進展していないのが現状である。手塚作品についての分析と石ノ森作品についての分析も、ほとんど論文化は終わったものの、前者に関しては登場人物の「内面」についての文学分野における既存の研究との整合性の確保が、後者に関しては石ノ森の作家性をどこまで議論に組みこむかという問題が、課題として残っており、発表には至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、論文を完成させ世に問うことが急務である。「孤児」モチーフを大々的に展開した手塚の初期作品「メトロポリス」(1949年)についての論文「「メトロポリス」(1949年)の位置」を日本児童文学学会の『児童文学研究』に、石ノ森作品の社会性についての論文「児童マンガにおけるヒーローの挫折」を『マンガ研究』に、『少年倶楽部』における海外児童文学の受容についての論文「戦前・戦中期の『少年倶楽部』における孤児の物語」を日本近代文学会の『日本近代文学』に、それぞれ投稿を行いたい。ただし、最後のものについては、国際児童文学館の紀要への投稿も視野に入れる。 その上で、遅れている戦後初期の赤本単行本や1950年代の貸本マンガについて、7~8月に昭和漫画館青虫で閲覧を行い、研究を進めたい。『漫画少年』、『少年』、『ぼくら』等、少年向け月刊誌については、5月から6月にかけて国立国会図書館や京都国際マンガミュージアムにて調査を進める。上にタイトルを記した未発表の論文では、手塚や石ノ森といった個々の作家の営為を通じて、敗戦後~1960年代半ばごろのマンガの基本的な物語のありようをすでに分析し終えている。ここで示された傾向と、どのような点が共通していてどのような点が相違しているのかを炙り出すことで、それ以外の作家の作品を位置づけ、分析していくことが、9月以降の研究課題となる。このようなスケジュールでもって、研究の遅れを取り戻し、日本の児童文化における物語のありようを明らかにしたい。
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Research Products
(2 results)