2019 Fiscal Year Research-status Report
19世紀末ドイツにおける人文主義と森鴎外の歴史叙述
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17K13396
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Research Institution | Takushoku University |
Principal Investigator |
村上 祐紀 拓殖大学, 政経学部, 准教授 (20758239)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 日本近代文学 / 森鴎外 / ドイツ / 歴史 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、本研究計画の最終年度に当たるため、これまでの研究調査の成果の一つとして「普及福音教会と森鴎外「鎚一下」」を発表した。本論文は、鴎外のドイツにおける知的ネットワークの中でも普及福音教会との接点について紹介し、そこから吸収した知見が「秀麿もの」と呼ばれる作品群にどのような影響を与えたのか、作中の言葉を手がかりに論じたものである。 従来、明治期に日本に受容されたキリスト教は、多くは英米由来のものであり、ドイツ由来のプロテスタンティズムである普及福音教会は「新神学」として異端扱いされてきた。布教当時からそのような傾向があったものの、ドイツから伝道師としてやってきたシュピンナーが設立した新教神学校からは、多くの人材が輩出された。その一人が赤司繁太郎であり、鴎外は赤司との交流を通して、ドイツプロテスタンティズムやドイツ文学の理解を深めていく。特に鴎外と赤司を結んだのは、ドイツの啓蒙学者の一人として知られるレッシングの「賢者ナータン」であった。これまで重視されてこなかった鴎外と赤司繁太郎との関係を明らかにした点に本研究の意義はあると考える。 また、従来秀麿ものは明治末期の日本の閉塞状況が反映された作品とされ、研究が積み重ねられてきた。しかし、鴎外のドイツプロテスタンティズム理解がドイツ留学時代から帰国後にかけてなされていたことを考え合わせると、秀麿ものの異なる側面も見えてくる。本論文によって、普及福音教会に関する調査を通して「鎚一下」の読み方を更新することができたと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2018年度途中に体調を崩したことによる遅れを、2019年度である程度取り戻すことができたとはいえ、昨年度までに収集した文献の読み込み、分析に当初計画より多くの時間を要してしまった。そのため、やや当初計画よりも遅れていると考えられる。 しかし、今年度はより的を絞った文献調査をドイツ・国内で遂行することができ、文献複写ができたことは収穫であるといえる。その成果の一部は、論文として発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は赤司繁太郎との接点となった、レッシングに関して鴎外の言説を整理したいと考えている。これまでの調査を踏まえると、レッシングに対する鴎外の関心は、文学者や批評家の側面だけに向けられていたものとは考えにくいからである。また、赤司繁太郎は新教神学校卒業後、牧師として活動する一方、ギリシア・ローマの神話研究へと進んでいくことになる。従来あまり研究されてこなかった赤司繁太郎は、近代日本文学史上においても重要な人物であると考えられるため、引き続き研究を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
2018年度に体調不良で研究を一時中断した結果、翌年度に繰り越した使用額が残ってしまったことが最大の理由である。今年度調査を二回予定していたが、春休み中の調査を遂行することができなかった。 今後の調査費として使う計画でいるが、渡航や出張の厳しい状況であるため、資料の取り寄せ・購入に費用を充てることで研究を進めようと考えている。
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