2017 Fiscal Year Research-status Report
活字化された日記資料群の総合と分析に基づく近代日本の「日記文化」の実態解明
Project/Area Number |
17K13397
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
田中 祐介 明治学院大学, 教養教育センター, 助教 (40723135)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 日記 / 青年知識層 / 旧制高等学校 / 読書文化 / 書記文化 / リテラシー / 自己表象 / アーカイブズ |
Outline of Annual Research Achievements |
当プロジェクトの活動の中心となる研究会「近代日本の日記文化と自己表象」を定期開催した(第11回:2017年5月13日、第12回:2017年7月15日、第13回:2017年9月16日、第14回:2017年12月16日、第15回:2018年3月18日)。開催を通じて、研究プロジェクトの今後の方向性を模索するとともに、今年度においては、高度経済成長期における「書くこと」、子供用の日記の明治期から大正期にかけての発展と形式的変遷、現代の手帳文化との共通性と差異など、新たな論点に関する考察を深めることができた。 研究会の成果を踏まえながら、前回プロジェクト(2014-2016)の成果を公に問うべく、論文集の制作を進め、田中祐介編『日記文化から近代日本を問う』(笠間書院、2017)を刊行することができた。同書により当プロジェクトの問題意識の共有と一層の研究の深化を図る所存である。 プロジェクトの国際的連携を実現すべく、庶民の日記資料のアーカイブを進める全北大学(韓国)の国際シンポジウムに参加し、上掲書の成果を周知するとともに、今後の一層の交流を約束した。2019年度には、日本・韓国・中国の研究者を中核とした個人文書を主題とする国際シンポジウムを日本で開催する計画である。 福田秀一氏(国文学研究資料館名誉教授・国際基督教大学元教授)が蒐集した日記資料群(〈福田日記資料コレクション〉)に基づく「近代日本の日記資料データベース」の公開を見据え、「戦場」と「銃後」の括りで日記資料を抽出し、データベース化を進めた。2018年度中の第一次公開を目標として、今後も定期的にデータベース化を促進する予定である。 研究活動を周知すべく、ウェブサイト(http://diaryculture.com)の充実化にも務めた。今後のデータベース公開とあわせ、成果発信の母体として位置づけてゆくつもりである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究会「近代日本の日記文化と自己表象」は計画通り定期開催し、毎回平均20名の参加者が国内東西の研究期間から集う場を形成することができた。また、参加者の研究分野は文学・歴史学・社会学・文化人類学・メディア史学・教育史学など多様であり、本研究課題が謳う学際性も確保することができた。 論文集は、当初予定を超える充実した内容となった。全7部、全17章構成となり、「自己を綴ることの制度化」「史料としての可能性」「真実と虚構」「学校文化の中の『書くこと』」「『外地』で綴られた日本語の日記」「近代日本の日記文化と浮き彫りにし、相対化するために」と各部のテーマを設け、多角的に近代日本の「日記文化」を考察することができた。また、民間団体である「女性の日記から学ぶ会」の代表である島利栄子氏との特別対談も収録し、狭義のアカデミズムと、民間の研究蓄積との協働の成果を活字として残すこともできた。 国際的連携の一環として、韓国全北大学との協力関係を強化することができた。上述したとおり、2019年度には、日本・韓国・中国の研究者を中核とした個人文書を主題とする国際シンポジウムを日本で開催する計画である。東アジアにおける連携は、進展するヨーロッパの「エゴドキュメント」研究との連携を実現するための地理的基盤ともなるものである。 上記の研究成果の一方で、主として時間的制約から、「近代日本の日記資料データベース」の制作は当初予定よりやや遅れていると言わざるを得ない。研究書の完成を経て、2018年度はデータベース化の一層の促進を図り、第一次公開の早期の実現を目指したい。
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Strategy for Future Research Activity |
研究会「近代日本の日記文化と自己表象」は2018年度も継続的に開催する。『日記文化から近代日本を問う』の成果を踏まえ、特に「モノとしての日記」「行為としての日記」の観点からの研究を深化させたい。既に有志とともに、「モノとしての日記」に焦点を定めた次なる出版計画を、出版社の協力を得て進めつつある。加えて、「行為としての日記」の考察を、歴史学、教育史学の研究者の協力を得ながら進展させたい。 2019年度に計画する国際シンポジウムは、上記の研究の成果報告の場とも位置づけられる。その際には、「モノ」「行為」の観点から日記を見ることの意義を近隣諸国の研究者と共有し、当プロジェクトの問題設定と研究成果を国際的な枠組に開いてゆくことも目的の一つである。 上記の計画とは別に、2018年度には当プロジェクト代表者(田中)が分担者を務める別プロジェクト「日記資料に基づく高度成長期日本民衆のデモクラシー意識の特徴と変容に関する研究」(代表:吉見義明中央大学名誉教授)のシンポジウムも計画されている。当プロジェクトとの研究成果の共有も諮りながら、無数の人々が綴った日記史料にどう向き合い、何を見出せるかを考える機会としたい。 「近代日本の日記資料データベース」は、「戦場」「銃後」を基軸としたデータベースの2018年度中の第一次公開の後は、「高度経済成長」「学生」などキーワードを増やしつつ、充実化を図る。日記本文を収めた出版物は明治以降のものに限定しても数千点を数えるが、従来総合的に把握されることはなかった。当プロジェクトによるデータベースの制作と公開により、多分野からの学術的利用ができる環境を整えてゆく所存である。
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Causes of Carryover |
計画的に予算消化し、端数の少額(1,841円)が残ったため。
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