2018 Fiscal Year Research-status Report
活字化された日記資料群の総合と分析に基づく近代日本の「日記文化」の実態解明
Project/Area Number |
17K13397
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
田中 祐介 明治学院大学, 教養教育センター, 助教 (40723135)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 日記 / 戦争の記憶 / 旧制高等学校 / 読書文化 / 書記文化 / リテラシー / 自己表象 / アーカイブズ |
Outline of Annual Research Achievements |
研究会「近代日本の日記文化と自己表象」を定期開催した(第16回:2018年5月19日、第17回:2018年7月15日、第18回: 2018年9月15日、第19回:2018年12月22日、第20回:2019年3月9日)。今年度の研究会では、農民活動家、ハンセン氏病患者、中原中也、旧制高等学校生等の日記を題材として考察を深めると同時に、昭和戦後期におけるサラリーマンの手帳文化についても、日記との共通点と相違点を踏まえながら、議論を交わすことができた。また、『マーシャル、父の戦場』(みずき書林、2018)の編者であり、映画『タリナイ』の監督である大川史織氏と面識を得て、戦場で餓死した日本兵の日記を手がかりに、極限状態における人間の書記実践の意味を問う機会を得た。2017年度、2018年度の研究会の成果を踏まえ、2019年9月に総括的なシンポジウムを開催すべく、準備を進めている。 従前からの「私小説研究会」との研究上の連携の一環として、旧制高等学校の寮日誌を扱った論考を、『「私」から考える文学史』(勉誠出版、2018)に寄稿した(田中祐介「真摯な自己語りに介入する他者たちの声」)。日記における自己語りと私小説の自己語りの比較考察は、作文教育における自己表象の主題を交えつつ、上述した2019年度シンポジウムでも取り上げる予定である。 福田秀一氏(国文学研究資料館名誉教授・国際基督教大学元教授)が蒐集した日記資料群(〈福田日記資料コレクション〉)に基づく「近代日本の日記資料 データベース」の公開を見据え、「戦場」と「銃後」の括りで日記資料のデータベース化を進めるとともに、高度経済成長から現代に至るまでの活字日記群を整理し、データベース化の次なる段階に着手できるよう備えた。データーベースの公開は2019年度に先送ったが、専門家の協力を得て、早期の実現を目指し、取り組みを続けている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究会「近代日本の日記文化と自己表象」は計画通り定期開催し、毎回15名から30名ほどの参加者が国内東西の研究期間から集う場を形成することができた。また、参加者の研究分野は文学・歴史学・社会学・文化人類学・メディア史学・教育史学など多様であり、本研究課題が謳う学際性も確保することができた。 学際性については、私小説研究会との連携による成果(田中祐介「真摯な自己語りに介入する他者たちの声」『「私」から考える文学史』勉誠出版、2018)も含められる。戦場で餓死した日本兵の日記に基づく『マーシャル、父の戦場』(みずき書林、2018)関連の研究会企画を契機として、新たな研究企画の構想を得つつある。 「近代日本の日記資料データベース」の制作は、「戦場」と「銃後」のカテゴリに含めた日記のデータベース化を一通り済ませ、高度経済成長期以降の日記群に取り掛かる段階まで達した。データベース公開は当初予定より若干遅れているものの、実現に向けて専門家との協議機会を継続的に設けている。 今年度は、前年度に展開をみせた国際的連携の動きがやや鈍かったのは悔やまれる。事業の最終年度である2019年度には、当研究プロジェクトの翌年度以降の発展を見据え、連携可能性を探りたい。
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Strategy for Future Research Activity |
研究会「近代日本の日記文化と自己表象」は2019年度も継続的に開催する。研究会活動の成果を公に発信する場として、2019年9月には2日間のシンポジウムを開催する。シンポジウムは従来の問題意識を踏まえ、「モノとしての日記」「行為としての日記」「史料としての日記」、それぞれの主題を深められるよう構成し、その成果は、『日記文化から近代日本を問う』(2017年12月)に続く新たな研究書として結実すべく、出版社との調整に着手している。 「戦場」「銃後」のカテゴリを第一段階として、「近代日本の日記資料データベース」を、当研究プロジェクトのウェブサイト(diaryculture.com)で公開する。2019年度中に、高度経済成長期から現代までの日記群を第二段階としてデータベースに加え、その後、明治から昭和戦前期の日記群を含め、データベースを拡充させる。あわせて、これまでに目録を公開(田中祐介・土屋宗一・阿曽歩「近代日本の日記帳」『アジア文化研究』33号、2013年)した手書きの日記資料群についても、データ形式を整え、個人情報の扱いに留意しながら、「近代日本の日記資料データベース」に統合する。当プ ロジェクトによるデータベースの制作と公開により、多分野からの学術的利用ができる環境を整えてゆく所存である。
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Causes of Carryover |
計画的に予算消化し、端数(8,339円)が残ったため。
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Research Products
(6 results)