2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K13400
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Research Institution | Kyoto Seika University |
Principal Investigator |
西野 厚志 京都精華大学, 人文学部, 講師 (00608937)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 谷崎潤一郎 / 源氏物語 / 古典受容 / 検閲制度 / 表現の自由 / 内閲 |
Outline of Annual Research Achievements |
谷崎潤一郎の創作のメカニズムや外的な要因(社会情勢や検閲制度)との間の力学を解明するために、①「潤一郎訳源氏物語」(1939~41)②「A夫人の手紙」(1946、50)③「細雪」(1943~48)の三作品の自筆資料の研究を継続してきた。これまでの実証的な研究に生成論という理論的な観点を付加した。生成論とは、周辺資料を参照しながら作品の成立史を明らかにし、それを様々な諸力が織りなすテクストの動的な生成過程として捉える視座である(松澤和宏『生成論の探求』、2003、名古屋大学出版会)。 具体的な内容と対象は、以下の三点である。①について、成立事情の解明のために出版社編集者らに宛てた書簡の内容を精査、今後は現在非公開となっている自筆原稿の調査・保存に着手する。②について、新出の原資料(執筆時に使用した素材=夫人宛ての友人の手紙)の内容の精査、素材提供者の遺族への数度の聴き取りから得た周辺資料、非公開の自筆原稿の調査を行った。③について、谷崎全集(2015~17)刊行時の本文異同の調査に基づき、最近発見された「細雪」の構想や素材を記した創作ノートから、加筆修正の施された自筆原稿(中央公論新社蔵)、戦時下に刊行された私家版やその校正刷など、貴重な出版資料を活用して創作のメカニズムを解き明かす準備に着手した。 以上の研究の一部は以前に学会で発表済みであり、今後は論文化に努めたい。今年度は、①について「新資料紹介 木内高音宛谷崎潤一郎書簡四十四通(解題・翻刻・注釈)」を発表した。これは、谷崎が戦前に皇室関連の箇所などを削除して刊行した現代語訳「源氏物語」に関して編集担当者・木内高音に宛てた新出書簡44通を、解題と重要な固有名詞や語についての注釈を付したうえで翻刻したものである。この他に、研究成果を広く社会に還元するため、公開講座や書店イベントなどの開催に努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、論文1本を発表した。また、公開講座などの開催によって研究成果を広く社会に発信することに努めた。特に、京都市左京区下鴨泉川町に現存する旧谷崎邸(後の潺湲亭、現石村亭)の見学などを通して、執筆の現場・作品の舞台を調査したことは、谷崎の創作のメカニズムを解き明かすうえで有益であった。これは、申請者の研究が過去に『京都新聞』(「谷崎を新たな視点で研究」2016・12・24)で紹介された際、「京都に住む地の利を生かして読解を深めたい」と強調した通りである。また、旧谷崎邸の所有者である日新電機から資料作成の際に、事実関係の確認など専門家としての助言を求められ、さらに公開講座開催を通して協力関係も築いてきた。この旧谷崎邸の見学を含む公開講座「谷崎文学を歩く」(2017・6・20、7・4)をはじめ、神戸文学館での講演「谷崎潤一郎『細雪』の世界~創作ノート・自筆原稿から見えるもの~」(2017・9・16)、大学コンソーシアム京都主催京カレッジ大学リレー講座「文学と表現の自由-谷崎潤一郎の現代語訳「源氏物語」と「細雪」を中心に-」(2017・9・9、10・21)、全国規模の読書会サークル・猫町倶楽部におけるレクチャー/フィールド・ワーク(2017・8・20、2018・3・10/11)、枚方蔦谷書店におけるトークイベント(2017・10・1)などが好評を博した。本研究については、成果発表の場として継続的に新聞の取材や公開講座などを通じて学外に発信し、一般の聴衆にも開かれた研究を達成し、社会に貢献していきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題が用いる生成論の対象となる資料には、着想やプロットを書き留めたメモやノート(前推敲段階)、削除と加筆の痕跡を留める下書き(推敲段階)、清書原稿や校正刷(前刊行段階)、刊行後の様々なヴァリアント(編集・刊行段階)が含まれる。引き続き、以下の資料について、次のような作業や調査を予定している。 戦時下版「谷崎源氏」の自筆原稿の調査。現在は非公開だが所蔵元に公開を求め、保存のためにデジタル化を提案する。所蔵元とは、刊行中の新全集の編集作業や文学関連書籍の発行を通して協力関係があり、「谷崎源氏」自筆原稿の内容も閲覧許可を得て一部確認済みで、資料保存についても打ち合せ済みである。 「A夫人の手紙」に関連する自筆資料や関連資料について、谷崎の自筆原稿、GHQによる検閲済みの校正刷・検閲調書(ともにプランゲ文庫所収)、作品の素材となった松子(谷崎夫人)宛て森村春子書簡3通、関連資料として春子宛て松子書簡1通などがある。すでに翻刻・注釈作業は完了しており、今後は活字化のために遺族への聴き取りに基づく内容の確認と追加調査が必要となる。 さらに、上記の資料調査を踏まえた考察の論文化を目指す。
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Causes of Carryover |
今年度予定していた「潤一郎訳源氏物語」自筆原稿のデジタル化の話が所蔵先の意向で先送りになり、使用計画に変更が生じたため。次年度以降、交渉を継続する予定である。
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Research Products
(6 results)