2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K13400
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Research Institution | Kyoto Seika University |
Principal Investigator |
西野 厚志 京都精華大学, 人文学部, 講師 (00608937)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 谷崎潤一郎 / 日本近代文学 / 占領期検閲 / 出版史 / 自筆原稿 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主要な研究成果として二本の論文を執筆・発表した。梗概は以下のとおりである。 「谷崎潤一郎「A夫人の手紙」素材・周辺資料紹介(翻刻・比較・注釈)」(『京都精華大学紀要』52号、2019・2) 谷崎潤一郎の戦後初の創作「A夫人の手紙」(1946/1950)は、軍事訓練を詳述したためにGHQの検閲によって発表禁止になったことから、戦後検閲研究の重要な資料とみなされている。一方、本作は他人の手紙をリライトしたものであるが、これまでの研究では小説の原資料についての情報が不十分であった。そこで、小説のもととなった手紙(谷崎夫人の松子に宛てられた森村春子の三通の書簡)について調査を実施し、A夫人のモデルである森村春子の遺族への取材をおこなった。本稿は、「A夫人の手紙」の作者・谷崎潤一郎と素材の提供者・森村春子との関わりを明らかにし、これまで不明であったその手紙の内容を翻刻して初公開するものである。さらに、その手紙と小説表現とを比較して、内容の一部に注釈を付けた。 「燃え上がる〈手紙/文学(レターズ)〉―原資料・自筆原稿と用紙問題からみる谷崎潤一郎「A夫人の手紙」―」(『日本近代文学』101号、2019・11、掲載決定済み) 本稿では、谷崎潤一郎「A夫人の手紙」について、執筆の際に使われた原資料(谷崎松子宛森村春子書簡三通)、さらに『谷崎潤一郎全集』(2915~17、中央公論新社)編集の過程で調査した自筆原稿も視野に入れ、小説の生成過程を追う。谷崎の書き換えと素材に施した虚構化の効果を分析し、原資料の同時代状況(戦中)と小説執筆の時間(戦後)が交錯する様相が明らかにする。また、戦時下の言論統制(用紙統制)と占領期のそれとの連続性を問うとともに、テクストの内容・形式の検討から谷崎特有の美学(プラトニズム)の帰結を読み取り、「A夫人の手紙」を谷崎文学全体の中に位置づけることを試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、論文2本を含めて数本の文章を執筆・発表した。加えて、これまですすめていた「潤一郎訳源氏物語」自筆原稿約3500枚のデジタル化が実現した。 前年度と同様に公開講座などの開催によって研究成果を広く社会に発信することに努めた。大学コンソーシアム京都主催京カレッジ大学リレー講座「現代の文学と〈物語〉の力~谷崎潤一郎・「源氏物語」・村上春樹~」(2018・6・9、10・21)、全国規模の読書会サークル・猫町倶楽部におけるレクチャー「「谷崎源氏」殺人事件~事件の幕開け~」と「谷崎潤一郎『細雪』の世界」(2018・8・19)、神戸元町映画館におけるトークイベント「谷崎潤一郎と映画のアブない関係!?」、(2018・5・19)などが好評を博した。本研究については、ひきつづき成果発表の場として公開講座などを通じて学外に発信し、一般の聴衆にも開かれた研究を達成し、社会に貢献していきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、谷崎潤一郎が戦時下に取り組んだ現代語訳「源氏物語」(『潤一郎訳源氏物語』全26巻、1939~41、中央公論社)の自筆原稿約3500枚の写真版を、所蔵先である中央公論新社の許可を得て作成した。これに基づき、自筆原稿の内容をテキストデータ化してゆく。そのうえで、戦時下の削除版と戦後に出版された完全版(『潤一郎新訳源氏物語』全12巻、1951~54、中央公論社)の本文比較を踏まえて内容を精査する。本作は戦時下に出版する過程で皇室関連の記述など一部削除を余儀なくされているが、以上の作業を通じて削除にいたる経緯があきらかにできるものと仮定している。調査にあたって、前年度に発表した「新資料紹介 木内高音宛谷崎潤一郎書簡四十四通(解題・ 翻刻・注釈)」(『早稲田大学図書館紀要』)など、これまでの研究成果と有機的に結び付けながら考察を進めてゆく。 さらに、上記の資料調査を踏まえた学会発表と考察の論文化を目指す。
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Causes of Carryover |
「谷崎源氏」の自筆原稿のデジタルデータ化が当初の予定よりも遅れたことにより、関連する出費を次年度にまわしたため。
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Research Products
(9 results)