2017 Fiscal Year Research-status Report
『河海抄』を中心とした室町期源氏学の動向と展開に関する基礎的研究
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17K13402
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Research Institution | Nara University |
Principal Investigator |
松本 大 奈良大学, 文学部, 講師 (30757018)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 『河海抄』 / 四辻善成 / 中世源氏学 / 古注釈 / 注釈書 / 享受史 / 『源氏物語』 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、①『河海抄』の伝本調査と注釈内容の分析、②四辻善成の源氏学の形成・展開と他の学問動向との連動・連関に対する考究、③『河海抄』以外の古注釈書・享受資料に関する検討、以上の三点を統合的に扱い、中世源氏学の実態を実証的に解明することを目的とする。 ①では、これまでの研究者の研究に継続するものとして、現存諸伝本の基礎的文献調査・本文系統の整理を行う。特に、注釈史上最も重要な伝本と捉えている、熊本大学附属図書館北岡文庫蔵本に対する重点的な調査と、その本文データの作成・公開を目指す。本年度は、巻十一と巻十五に関する論考をまとめつつ、当初の計画通り、北岡文庫蔵本に対する細かな調査を行い、本文データ作成に向けた基盤を整えた。 ②では、具体的な注記や注釈内容から、善成の学問体系における源氏学の位置付けを浮かび上がらせる。背景にある文化圏からの影響を中心に、先行する源氏学の摂取・利用の実態、諸学問の成果との関係等に検討を加える。本年度は、『河海抄』で用いられる「可随所好」という文言に着目し、様々な典籍における使用状況を確認した上で、当時の注釈に対する基本的姿勢の一端を明らかにした。また、『李部王記』を引用する注記について、その発生・展開・流入の経緯等の問題を集中的に考察した。 ③では、前述の①・②で得られた成果を援用し、『河海抄』以後の源氏学における、周辺諸学との接点に焦点を当てる。具体的には、『伊勢物語』や『古今和歌集』の注釈書、連歌論書等への影響関係を探る。本年度は、宗祇の『伊勢物語』の注釈書である『伊勢物語山口記』を対象の中心に据えた。『伊勢物語』注釈史の流れを押さえながら、宗祇が残した数々の『源氏物語』や『伊勢物語』の注釈書との相関関係、また連歌書や歌学の面から見た宗祇の物語注釈の位置付けについて、国際学会(第15回ヨーロッパ日本研究協会国際会議)で詳細な報告を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究は、おおむね当初の計画通りに遂行することが出来た。 ①に関しては、未見諸本の継続的な調査も必要ではあるものの、諸本の本文系統を把握する上での、基礎的かつ重要な観点を獲得しつつある。本年度の成果である巻十五に関する論考では、室町期に広く流布していたと考えられる三条西実隆筆本系統の性格・問題点を指摘しており、今後の研究推進に関する一つの指針を得ている。また、北岡文庫蔵本の本文データ作成については、これまでの調査によって得られた情報を反映させながら、基盤となる本文データの作成に着手する段階にある。 ②について、1年目に計画していた、一条兼良の『源氏物語』注釈書である『花鳥余情』との関係性解明に関しては、未分明の問題が残されている。これは、本年度の研究推進によって見えてきた、新たな課題である。注釈書の成立と、注釈内容の増補改訂との関係について、従来の研究に見直しを迫る知見を得ることが出来たため、今後も継続して取り組む必要があるものと考える。 ③においては、宗祇の物語注釈に関する基礎的研究を、当初の年度計画通りに遂行することが出来た。次年度以降に計画している、兼良から宗祇・三条西実隆に至る『源氏物語』享受史の動向把握、及び、物語注釈が担う学問的役割の推移変遷に関する実態解明、以上2点の課題への蓄積とすることが出来た。連歌師の動向・影響については、②とも連動する部分が多いため、今後はそれぞれを並行的に進めつつも、適宜これらを有機的に関わらせながら推進すべきであると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降の研究推進については、研究計画、研究方策ともに、当初の計画に基づきながら行うものとする。 ①においては、最も優先すべきは北岡文庫蔵本の本文データの作成・公開であり、2・3年目は翻刻を行うものとする。2年目の翻刻は全体の半数を予定している。また、各地の所蔵機関への調査については、青山記念文庫・陽明文庫等を対象とし、国文学研究資料館所蔵のマイクロフィルム・紙焼写真をも用いていく。 ②に関しては、1年目の課題である『花鳥余情』との関係性解明を継続して扱いつつ、2年目以降は、二条良基の文化圏との影響関係について検討を加える。具体的には、冷泉為秀、頓阿、今川了俊を中心とする。この三名は、良基文化圏の中心的な人物であり、かつ著作も多く残っている。各著作の内容を比較することによって、『河海抄』成立に際して彼らから受けた影響と、『河海抄』成立後に彼らに与えた影響とを解明する。注記内容の対応を細かく確認しながら、影響関係の実相を把握することを研究の主眼とする。 ③については、宗祇と三条西実隆を中心とした、『源氏物語』『伊勢物語』の注釈書・享受資料に関する検討を中心的に行う。従来の研究で直線的かつ単線的に捉えられてきた享受史について、室町時代前期の『源氏物語』『伊勢物語』の注釈書・享受資料を扱い、物語注釈がどのように変貌していったのかを通時的変遷を学際的視点から俯瞰する。宗祇・実隆に関する先行研究は十分に蓄積されているため、これら先学の指摘を応用しながら室町期源氏学の様相を掴む。2年目の具体的な対象としては、『河海抄抄出』『花鳥余情抄出』『雨夜談抄』を予定している。なお、②と連接する部分については、統合的に扱うものとする。
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Research Products
(6 results)