2018 Fiscal Year Research-status Report
図会と絵本読本の生成・出版、及びその近世中後期上方文学界の動態との相関の研究
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17K13403
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
藤川 玲満 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 講師 (20509674)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 日本文学 / 近世文学 / 秋里籬島 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、文運東漸後の上方の文学の意義を、図会と絵本読本の領域を中心とする作品形成の解明や、作者の意識・文学界の動向の検証によって捉え直すことを目的としている。本年度は、まず、秋里籬島による「図会もの」の読本作品群について、総体的な解明を試みた。対象としたのは、『源平盛衰記図会』『保元平治闘図会』『前太平記図会』と、その周辺作の『絵本朝鮮軍記』『絵本年代記』である。これらについて、原拠との相違、著作間の相関、文学活動との連動を中心に特質の検討を行った。その結果として、源家を描く主意や作中の人物描写に籬島の伝記・文学的嗜好からの影響が考えられ、また、漢籍の故事・章句を用いた表現方法が彼の俳諧活動の素養と発想に由来している実態を明らかにした。そして、籬島が歴史を叙述することとその態度は、名所図会の執筆と通底する、事実の実証性に立脚しようとするものであることを捉え、このことは、作者の文芸環境の周辺における歴史研究の志向と連鎖する可能性があるのではないかと考えた。この研究成果は、従来、創作性の欠如を言われてきたこれらの作品群の、形成における意匠や方向性を捉えたものであり、読本領域における同時代の文芸・学問の潮流との関係、制作の基盤となる知識体系の一端を見出した意義があると言える。以上の「図会もの」読本の研究のほかに、図会を読本領域で展開していく作者籬島の小説形成の技法に関して、彼の奇談的読本『赤ぼしさうし』を対象に検討を行った。素材源と趣向の解明を試み、著作間の連関、名所図会・「図会もの」読本・奇談集における素材(文化史・歴史・文芸)の描出技法の差異や選択、作者の知識体系について考証している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
秋里籬島の「図会もの」読本・絵本読本を総体的に捉えることに至っており、表現方法や叙述内容・態度の特質とその要因、時代環境・他ジャンルとの通有性を見出す成果を得た。これらを基盤として、この先、文壇の動態との相関の検討を進めることができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、図会もの読本と絵本読本についての個別の作品研究を順次加えながら、本年度までの結果と統合して体系的に整理していく。平行して、上方作者・文壇における書物制作の動態についての検討も進め、図会もの読本・絵本読本の位置や意味についての総括的な考証に進む。
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Causes of Carryover |
次年度に繰り延べた調査研究のための経費について、本年度未使用額が生じた。これは次年度に当該の調査研究を遂行するために使用する。これとあわせて、当初の次年度の計画内容を実施する目的で、次年度交付の研究費を使用する計画である。
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